IFRC <一般社団法人 国際金融研究センター> https://ifrc.or.jp Sun, 01 Feb 2026 13:46:20 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.9.4 https://ifrc.or.jp/wp-content/uploads/2024/05/cropped-IFRC-favicon-1-32x32.png IFRC <一般社団法人 国際金融研究センター> https://ifrc.or.jp 32 32 「親ガチャ」は本当だった?生まれで決まる教育の現実 https://ifrc.or.jp/education-gap/ Sun, 01 Feb 2026 13:46:19 +0000 https://ifrc.or.jp/?p=2236

「親ガチャ」という言葉を聞いたことはありますか?生まれてくる家庭を選べないことを、スマホゲームのガチャに例えた言葉です。一見すると冗談のように聞こえるかもしれませんが、実は日本の教育現場では深刻な現実を映し出しているんで […]]]>

「親ガチャ」という言葉を聞いたことはありますか?生まれてくる家庭を選べないことを、スマホゲームのガチャに例えた言葉です。一見すると冗談のように聞こえるかもしれませんが、実は日本の教育現場では深刻な現実を映し出しているんです。親の経済力によって子どもが受けられる教育の質や量が大きく変わり、それが将来の進路や収入にまで影響を及ぼしています。

こうした「教育格差」は、もはや個人の努力だけでは乗り越えられない社会構造の問題になっているといえるでしょう。今回は、データや具体例をもとに、日本の教育格差の実態と、それが生み出す階層の固定化について一緒に考えていきます。

親の年収が決める子どもの未来

教育格差を語る上で避けて通れないのが、親の所得と子どもの学力の相関関係です。実際のデータを見ると、その関係性ははっきりと表れています。お茶の水女子大学が行った2018年の調査によれば、世帯年収1,500万円以上の家庭の子どもと、年収200万円未満の家庭の子どもでは、中学3年生の数学で約25ポイントもの差が生じています。

<世帯年収別の子どもの学力(中学3年生・数学の正答率)

世帯年収正答率(中学3年生・数学)
200万円未満約55%
400~600万円約65%
800~1,000万円約72%
1,500万円以上約80%
出典:国立大学法人お茶の水女子大学「保護者に対する調査の結果と学力等との関係の専門的な分析に関する調査研究」

この差は学力の違いだけでなく、将来の進路選択の幅にも直結します。経済的な理由で大学進学を諦めたり、奨学金という借金を背負ってスタートせざるを得ない若者が増えているのが現状です。

教育にかかる見えないコスト

「義務教育は無償」といわれていますが、実際には教育には多くの「見えないコスト」がかかっています。文部科学省の調査によれば、私立小学校に通う子どもの年間学習費総額は約166万円、公立小学校でも約35万円の教育費がかかります。

幼稚園から大学まですべて公立に通った場合でも約800万円、すべて私立なら2,000万円を超える費用がかかります。この金額を用意できるかどうかが、子どもの教育機会を大きく左右しているといえるでしょう。物価高が続く中、子どもの習い事にも影響が及んでいます。最も懸念されるのは低所得層への影響です。

低所得層の子どもが直面する教育環境の課題
  • 一般的な塾に通えない
  • 家庭に学習机がない
  • 参考書や教材を十分に買えない
  • オンライン学習に必要な機器が揃わない

こうした教育環境の格差は、機会の不平等に直結しています。イー・ラーニング研究所の調査では、保護者が特に取組みを強化してほしい課題として「教育格差」が最多となり、「子どもの貧困」「いじめ問題」と続いています。

奨学金という名の借金を背負う若い世代

大学進学率は約50%を超えていますが、その半数以上が何らかの奨学金を利用しています。この「奨学金」という言葉には注意が必要です。日本の奨学金の多くは「貸与型」、つまり返済義務のある借金です。欧米諸国で一般的な「給付型奨学金」(返済不要)とは性質が異なります。

調査によると、奨学金を借りている学生の約7割が返済を自分で全額負担する予定だと答えています。社会人としてのスタート時点で数百万円の借金を背負うことは、その後の人生設計に以下のような影響を与えます。

奨学金返済が及ぼす主な影響
  • 結婚や出産、子育てに影響があると回答した人が約4割いる
  • 返済が3ヶ月以上滞ると信用情報機関に登録される可能性がある
  • 結婚を断られるケースもある
  • リスクを取った起業やキャリアチェンジが困難になる

一方、親の経済力がある学生は借金なしで社会人生活をスタートできます。この「スタートラインの違い」こそが、世代を超えて格差を生み出す要因となっているのです。

世界から見た日本の教育投資

世界に目を向けると、多くの先進国が教育の無償化や給付型奨学金の拡充を進めています。北欧諸国では大学の授業料が無料であるだけでなく、学生に対して生活費の支給まで行われています。

日本でも2020年から低所得世帯の学生に対する給付型奨学金と授業料減免が実施され、2025年度からは3人以上の子どもがいる多子世帯に対して大学などの学費を無償化する方針が進められています。また、2025年2月には高校授業料の所得制限が撤廃されました。

しかし、日本の教育への公的支出は国際的に見て低い水準にあります。

<日本の教育への公的支出(国際比較)>

項目OECD平均日本
教育への公的支出
(対GDP比)
4.7%3.9%
公的支出全体に占める教育費の割合11%7.1%
高等教育への公財政支出
(在学者1人あたり)
15,102ドル(約230万円)8,184ドル(約130万円)
出典:OECD「図表でみる教育2025:日本」

日本はほかの国と比べて、公的支出のうち社会保障や健康への割合が高く、教育への投資は相対的に低くなっています。家計が教育費を負担する割合が高く、結果として親の経済力が子どもの教育機会を決定する構造となっているのが現状です。

まとめ

「親ガチャ」という言葉が若者の間で広まった背景には、努力だけでは乗り越えられない構造的な不平等への諦めがあります。親の所得と子どもの学力・学歴には明確に関連しており、それが次の世代の所得格差にもつながっています。教育格差の解消には、給付型奨学金の拡充や公教育の質の向上、家庭の経済状況に左右されない学習機会の提供、そして教育への公的支出の増加が必要です。

フィンランドでは、就学前教育から大学まで学費が無料であり、給食、教材、通学費も無償です。結果として、親の所得や学歴による子どもの学力差が最小化されています。生まれによって人生の選択肢が制限される社会ではなく、すべての子どもが自分の可能性を追求できる社会を目指すこと。それは私たち一人ひとりが考えるべき、未来への投資といえるでしょう。あなた自身も、この問題について身近なところから考えてみませんか。

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物価高なのに給料が上がらない?インフレ時代の給与交渉の方法 https://ifrc.or.jp/salary-negotiation/ Sun, 25 Jan 2026 11:35:46 +0000 https://ifrc.or.jp/?p=2224

スーパーで買い物をするたびに「また値上がりしてる…」と感じることはありませんか?食品や日用品、電気代など、あらゆるものの価格が上昇しています。一方で、給料明細を見ても「そんなに増えていない」と感じる人が多いのではないでし […]]]>

スーパーで買い物をするたびに「また値上がりしてる…」と感じることはありませんか?食品や日用品、電気代など、あらゆるものの価格が上昇しています。一方で、給料明細を見ても「そんなに増えていない」と感じる人が多いのではないでしょうか。

実は、日本では名目上の給料は少し上がっていても、物価上昇を考慮した「実質賃金」は下がり続けているという矛盾が起きています。この状況で私たちはどうすればいいのでしょうか。今回は、インフレ時代に自分の収入を守り、増やすための給与交渉や転職について、若い世代のみなさんにも分かりやすく解説します。

給料は上がっても実質賃金は下がっている矛盾

実質賃金とは

「実質賃金」とは、物価の変動を考慮した賃金のことです。例えば、給料が月1万円上がったとしても、物価が2万円分上がっていれば、実際の購買力は下がってしまいます。これが今の日本で起きている現象です。

厚生労働省の「毎月勤労統計調査 2025(令和7)年11月分結果確報」によると、2025年11月の実質賃金は前年同月比で2.8%減となり、11カ月連続でマイナスを記録しています。つまり、「給料は上がったけど、生活は楽にならない」という状況が数字でも証明されているのです。

物価上昇の実態

総務省統計局が発表した消費者物価指数(CPI)を見ると、2025年12月時点で前年同月比2.1%の上昇となっています。下のグラフは消費者物価指数の推移を示したものです。

消費者物価指数のグラフ
出典:総務省「2020年基準 消費者物価指数」

2020年を基準(100)とすると、2025年12月には113ポイントまで上昇しており、物価が着実に上がり続けていることが分かります。

なぜ日本では給与交渉が難しいのか?

欧米では転職時や評価面談の際に給与交渉をするのが当たり前ですが、日本では「お金の話をするのは図々しい」「会社が決めることに口を出すべきではない」という空気があります。この文化的背景が、給与交渉のハードルを高くしています。

日本企業の多くは、給与テーブル(※勤続年数や役職に応じて給料が決まる仕組み)が固定されており、個人の交渉で大きく変えることが難しい構造になっています。

ただし、近年は状況が変わりつつあります。経団連の調査によると、2025年の春季労使交渉では大手企業の賃上げ率が5.39%と、2年連続で5%台を記録しました。これは1991年以来33年ぶりの高水準です。

近年の賃上げ動向
  • 2024年:賃上げ率5.17%
  • 2025年:賃上げ率5.39%(大手企業)

    ※中小企業でも約5%近い賃上げを実施

しかし、この賃上げでも物価上昇に追いついていないのが現実です。だからこそ、個人レベルでの給与交渉や転職が重要になってきます。

自分の適正年収を知る方法

給与交渉をする前に、まず自分の市場価値を知ることが重要です。国税庁の「令和5年分民間給与実態統計調査結果について」によると、日本の給与所得者1人あたりの平均年収は約460万円となっています。以下は、年代別の平均年収です。

年齢全体男性女性
20〜24歳267万円279万円253万円
25〜29歳394万円429万円353万円
30〜34歳431万円492万円345万円
35〜39歳466万円556万円336万円
40〜44歳501万円612万円343万円

※出典:国税庁「令和5年分民間給与実態統計調査結果について」

以下のような転職サイトの年収診断ツールを使えば、自分のスキルや経験に基づいた適正年収の目安が分かります。

  • doda年収査定:職種・年齢・スキルを入力すると、市場価値が診断できる
  • ミイダス:経歴を登録すると、企業からのオファー想定年収が表示される
  • OpenWork(旧Vorkers):同じ業界・職種の人の年収データが閲覧できる

同業他社の求人をチェックすることで、今の自分の給料が相場より低いのか高いのかが見えてきます。これは交渉の際の重要な根拠になります。

社内での給与交渉は準備とタイミングが9割

給与交渉はいつ行うかが非常に重要で、具体的には以下のタイミングが効果的です。

給与交渉のタイミング
  • 人事評価面談の時期
  • 大きなプロジェクトを成功させた直後
  • 業務範囲や責任が増えたタイミング
  • 会社の業績が好調な時期

そして、給与交渉の際は感情論ではなく、客観的なデータに基づいて交渉することが成功の鍵です。準備すべき資料を、以下のとおりまとめました。

準備すべき資料
  • 自分の業績や成果を数値化したもの(売上貢献額、コスト削減額など)
  • 同業他社や市場の給与相場データ
  • 自分が担当している業務の範囲と責任の変化
  • 取得した資格やスキルアップの実績

給与交渉の際は、「給料を上げてください」ではなく、「これだけの成果を出しているので、市場価値に見合った評価をお願いしたい」という姿勢が大切です。また、上司との信頼関係を壊さないよう、感謝の気持ちも忘れずに伝えましょう。

転職による年収アップとリスク

転職で年収が上がる可能性

転職による年収アップは、もはや珍しいことではありません。

パーソルキャリア株式会社が運営する「duda」の「2024年度版 決定年収レポート」によると、2024年度に転職した人の59.3%が年収増加を実現しており、これは過去6年間で最高の数字です。また、パーソルキャリア株式会社が運営する調査機関「Job総研」が2025年12月に実施アンケートでは、転職によって年収が上がったと回答した人の割合は62.2%に達しています。つまり、10人に6人は転職で収入を増やしているのです。

転職による年収アップの相場は、前職プラス10%程度とされています。日本の平均年収約480万円の場合、転職後は48万円アップの528万円が目安となります。2026年の転職市場は、21業界中20業界で採用が活況または横ばいと予測されており、転職のチャンスは広がっています。特に20代の転職率は12.0%と最も高く、若いうちに市場価値を高める動きが活発です。

転職のリスク

一方で、転職には以下のようなリスクもあります。

  • 新しい環境に適応できない可能性
  • 試用期間中の評価リスク
  • 退職金や年金の積み立て期間がリセットされる
  • 人間関係を一から構築する必要がある

年収だけでなく、働きやすさやキャリアの将来性も含めて総合的に判断することが重要です。

まとめ

物価が上がり続ける今、会社が給料を上げてくれるのを待つだけでは、生活はどんどん苦しくなってしまいます。大切なのは、自分の市場価値を正しく知り、それに見合った対価を得るために行動することです。社内での給与交渉も、転職による年収アップも、どちらも自分の価値を正しく伝えるという点では同じです。

まずは転職サイトの年収診断や求人チェックから始めて、自分の立ち位置を確認してみましょう。そして、適切なタイミングで、データに基づいた交渉をする。その一歩が、インフレ時代を生き抜く力になります。

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商社はどうやって儲けているのか?三菱商事・三井物産のビジネスモデルを解説 https://ifrc.or.jp/trading-company-model/ Fri, 16 Jan 2026 08:02:34 +0000 https://ifrc.or.jp/?p=2166

「商社って何をしている会社なの?」「どうやって利益を出しているの?」就活生の多くが抱くこの疑問に、本記事では三菱商事と三井物産という日本を代表する2大総合商社を例に、そのビジネスモデルを分かりやすく解説します。 商社のビ […]]]>

「商社って何をしている会社なの?」「どうやって利益を出しているの?」就活生の多くが抱くこの疑問に、本記事では三菱商事と三井物産という日本を代表する2大総合商社を例に、そのビジネスモデルを分かりやすく解説します。

商社のビジネスは「トレーディング」「事業投資」「事業経営」という3つの柱で成り立っており、資源からインフラ、食品、IT、ヘルスケアまで幅広い分野で収益を上げています。各社がどのような戦略で利益を生み出しているのか、具体的な事例とともに見ていきましょう。

商社のビジネスモデル3本柱

トレーディング:貿易の仲介役

商社の原点ともいえるのがトレーディングです。トレーディングとは、売り手と買い手をマッチングさせる仲介ビジネスのことを指します。

例えば、自動車メーカーが車を製造するには鉄鋼が必要です。この時、鉄鋼メーカーと自動車メーカーの間に入り、貿易を成立させるのが商社の役割です。商社は仲介手数料と売値・買値の差額で利益を得ます。

総合商社の強みは、この仲介を川上(原料)から川中(製品)、川下(販売)まで、サプライチェーン全体でカバーしている点にあります。世界中に張り巡らされたネットワークと情報収集力が、このビジネスを支えています。

サプライチェーン:原材料の調達から製造、販売までの一連の流れ

事業投資:企業の株式を取得し経営に参画

近年、商社の収益の柱となっているのが事業投資です。事業投資とは、将来性のある企業の株式を取得し、その企業の経営に継続的に参画することを指します。

一般的な投資ファンドと異なり、商社の事業投資は「売却して利益を得る」ことがゴールではありません。半永久的なパートナーとして企業に投資し、既存事業とのシナジー効果を最大化することが重視されます。

シナジー効果:複数の事業を組み合わせることで、単独で行うよりも大きな成果を生み出す効果

商社は投資先企業に対して、資金提供だけでなく、人材派遣、経営ノウハウの提供、グローバルネットワークの活用など、多面的な支援を行います。これにより、投資先企業の企業価値を高め、配当や株式利益を得るのです。

事業経営:グループ企業としての価値創出

事業投資の先にあるのが事業経営です。商社は投資先企業をグループ会社として取り込み、複数の事業を組み合わせることでシナジー効果を生み出します。

伊藤忠商事とファミリーマートの関係が好例です。伊藤忠商事はファミリーマートの筆頭株主として経営に深く関与しています。コンビニという「消費者との接触点」を核に、食品の製造・卸売、金融サービスなど、多様なビジネスを組み合わせて展開しているのです。

なぜ「ラーメンからロケットまで」扱えるのか?

商社が「総合」と呼ばれる理由は、扱う商材の幅広さにあります。三菱商事を例に取ると、地球環境エネルギーや金属資源、社会インフラ、モビリティ、食品産業など、8つの主要セグメントで事業を展開しています。

グラフ:三菱商事のセグメント別連結純利益
出典:三菱商事株式会社「2024年度決算及び2025年度見通し 説明会資料」

このグラフからは、地球環境エネルギー、金属資源、モビリティなど、多様な事業領域に分散投資されている様子が読み取れます。

この多角化戦略には明確な狙いがあります。資源価格の変動や特定業界の不況など、一つの事業が不調でも、他の事業でカバーできる体制を作ることです。自社の資産を数多くの企業・事業にバランスよく分散投資することで、ポートフォリオを最適化しているのです。

ポートフォリオ:複数の投資先や事業を組み合わせた資産構成

商社のビジネスモデルは、ほぼすべての業界に関与する「クロスセクター型」が特徴です。この柔軟性と多様性が競争力を支えています。例えば、資源分野で得た利益を非資源分野に投資する、あるいは異なる業界の企業同士を結びつけて新しいビジネスを創出するといったことが可能になります。

三菱商事・三井物産の戦略から見る商社の稼ぎ方

三菱商事:資源とLNGで成長を狙う

三菱商事は2025年度上半期で約8兆6,378億円の収益を上げています。セグメント別では、マテリアルソリューション、金属資源、地球環境エネルギーの3つで全体の約6割を占めます。

三菱商事の特徴は、資源分野への強いこだわりです。2027年度には純利益1.2兆円を目指しており、その鍵を握るのがLNG事業の拡大です。LNG事業では60年以上の歴史を持ち、ガス田開発からLNGの生産・販売までを手がけています。

LNG(液化天然ガス):天然ガスを冷却して液体にしたもので、輸送や貯蔵が容易になる

一方で、2025年8月には国内洋上風力事業からの撤退を決定しました。インフレや為替、金利の激変で機材価格が高騰し、事業の採算が見込めなくなったためです。採算性を重視した経営判断といえます。

三井物産:資源を軸に多角化を進める安定収益モデル

三井物産は、金属資源とエネルギー分野を中心に据えながら、機械・インフラや化学品など幅広い分野で収益を上げる商社です。

グラフ・表:三井物産のセグメント別売上総利益
出典:三井物産株式会社「セグメント情報」

まとめ

商社のビジネスモデルは、トレーディング、事業投資、事業経営という3つの柱で成り立っています。

三菱商事は総合力を活かし、資源からインフラ、食品、自動車まで幅広い分野でバランスよく収益を上げています。一方、三井物産は金属資源とエネルギーを軸に据えながら、機械・インフラや化学品など非資源分野でも着実に利益を積み上げ、市況変動に強い収益構造を築いています。

商社は「ラーメンからロケットまで」と言われるほど多角化しており、世界中のビジネスチャンスを捉えて成長を続けています。今後就職する若い世代の皆さんも、各社の戦略や強みを理解し、自分に合った商社を見つけてください。

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地域をアントレプレナーシップで打破しよう! 羽曳野・藤井寺発、学生・若者の活躍する三方よしのシン・地域創生論|天野 了一 氏 https://ifrc.or.jp/amanoryoichi-prof/ Tue, 13 Jan 2026 11:48:15 +0000 https://ifrc.or.jp/?p=2198

インタビュー取材にご協力いただいた方 天野 了一(あまの りょういち)氏(通称:あまやん) 四天王寺大学 経営学部・教授 公益社団法人 関西経済連合会・IIS新事業創出機構、公益財団法人 関西文化学術研究都市推進機構を経 […]]]>

インタビュー取材にご協力いただいた方

天野 了一(あまの りょういち)氏(通称:あまやん) 四天王寺大学 経営学部・教授

公益社団法人 関西経済連合会・IIS新事業創出機構、公益財団法人 関西文化学術研究都市推進機構を経て現職。 ベンチャー起業、産学連携、起業教育、地域産業、商品論等を専門とする。産学連携・インキュベーションマネヂャーとしての長年の経験から、ビヂネスプロデューサー/起業コンサルタントとしてノベーション・システム研究所を設立、特殊トウガラシ栽培による農村地域活性化プロジェクトなども推進。特に、学生起業家や若手起業家の育成・輩出に注力し、藤井寺市内に個人で起業支援施設「チャレンヂパーク De La Shula(デラドーム)」、商店街に大学の産学地域交流施設「エリアデザイン・ラボ」を運営し、産学連携や学生の参画による地域ブランド向上、新事業創出、ビヂネスコーディネートなどを精力的に展開している。

四天王寺大学の天野了一教授は、羽曳野・藤井寺市を中心とした大阪の南河内エリアで、地域イノベーションと学生起業家の育成に取り組んでいます。激辛唐辛子栽培や、古民家での缶ジュース、ソフビ人形の展示会、キッチンカー起業などユニークな実践を重ねる一方、大人たちの「常識や凝り固まった考え」が挑戦の壁になると指摘します。

本インタビューでは、地域の「誇り」「魅力」の再発見から、世代を超えたアントレプレナーシップ(起業家精神)を育てる取り組みや、「空間・人・時間・ストーリー」を軸にした持続可能な地域づくりのヒントを紹介。「地域こそリアルで可能性に満ちた教室」と語る天野教授が描く、「訪れてよし、住んでよし、そして、起業してよし」の「三方よし」地域のビジョンに迫ります。

世界遺産の古墳群だけじゃない!「伝説」や「ユニークな特産品」を擁する羽曳野市・藤井寺市の「埋蔵された魅力」

―― 四天王寺大学がある羽曳野市の特徴について教えてください

天野先生:羽曳野市・藤井寺市は、世界遺産に登録された応神天皇陵、仲哀天皇陵などを含む百舌鳥・古市古墳群(もず・ふるいちこふんぐん)を有する、古事記や日本書紀からの歴史ある地域です。しかし、古墳群はアクセスの不便さや駐車場の不足、そして外観が「ただの山」に見えてしまうことなどから、その魅力を十分に発信しきれていないという課題があります。

羽曳野市はブドウ、イチヂクや、食肉産業など豊かな農産物・グルメ資源に恵まれています。市名は、伝説の英雄・ヤマトタケルが白鳥となって羽根を曳き飛び立ったという物語に由来。奈良県との県境に位置する二上山や、奈良へと続く竹之内街道など、奈良とのつながりも深い地域です。藤井寺市は、菅原道真ゆかりの道明寺があり、豊臣氏が滅亡した大坂夏の陣の舞台でもあります。葛井寺(ふぢいでら)には日本で唯一の、本当に手が千本以上ある国宝の千手観音、津堂城山、古室山、鍋塚など大小の頂上に登れる古墳もあります。みんなで古墳に登ったり、チャンバラのイベントなども行ったりと、学生といろいろ活動しています。

【画像】有名なチョーヤ梅酒の工場も羽曳野市にあります(天野教授提供)

―― 有名なチョーヤ梅酒の工場も羽曳野市にあります

天野先生:羽曳野市には、生食用ブドウやワインのほか、ブドウを原料としたブランデー由来の梅酒を製造するチョーヤ梅酒の工場があります。そこの県境の二上山(にじょうさん)には蝶々がたくさん飛んでおり、石器時代の矢尻がみつかったことがその名の由来で、梅自体は和歌山産ではあるものの、羽曳野の名産品として世界で人気です。

また、VIPカー用品メーカーや、国内で唯一跳び箱を製作している職人がいるなど、独自の産業や人材が根付いています。藤井寺市は、赤ちゃんから食べられる「乳ボーロ」の生産日本一で、最近ではなんと鰻の陸上養殖がはじまり、「美陵うなぎ」と命名、大阪万博でも大好評を博しました。ご当地グルメとしては石鹸用の油をとったホルモンである「あぶらかす」「かすうどん」などが知られています。こうした地域資源を掘り起こし、住民が誇りを持てるようにし、観光誘致へとつなげたいと考えています。

南河内の眠れる資源を発掘! 古い建物と個人の情熱が結びついた地域活性化の成功事例

―― 先生が推進されている大阪・南河内エリアでの地域連携プロジェクトや起業支援について、特に成功した事例について教えてください

天野先生:羽曳野・藤井寺のような「中途半端な郊外」で、「この街は変わらない」と諦めている人が多い中、地域連携プロジェクトでは、地域に貢献できそうなことは、NPOや行政とも連携して、何でもやりますね。築100年近い古民家や昭和の商店街の店舗の再生、魅力化も地域NPOともに進めています。リノベーションを行った場所は学生も参画し、地域の交流サロン、アートスペース、古書店、ヒーリングスペースとして活用されています。

例えば、私は高校時代から、地方や銭湯などで飲んだ珍しいジュースの缶をずっと自宅の押し入れなどに秘蔵し続けていましたが、家を手放すことになり、最後にそのコレクションを多くの人に見てもらおうと、土師の里という場所の元庄屋、村長宅の古民家で展示会を開きました。ジュースは、それを飲むために出かける人はいませんが、飲んだ場所、さまざまな青春や人生の思い出を呼び起こす「脇役」のような存在です。1000個のレトロ缶や、当時のCMの展示を通じて、来場者にも過去の記憶やデザインの面白さを古民家の雰囲気とともに感じてもらいたいと思いました。

【画像】1000個のレトロ缶(天野教授提供)
【画像】1000個のレトロ缶(天野教授提供)

それを見て、卒業生の起業家も立ち上がり、ウルトラマンや仮面ライダーなどのソフトビニール人形(ソフビ)の展示販売会もそこで実施。大人から子供まで大盛況で、全国各地をまわることになりました。古民家とレトログッズはマッチし、全く知らない世代にも新しさがあります。これからも多くの学生や若者に、様々に、思いもつかないネタで活用してもらいたいです。

【画像】古民家でのソフビの展示販売会(天野教授提供)
【画像】古民家でのソフビの展示販売会(天野教授提供)

―― 地域連携プロジェクトにおいて苦労された点をお聞かせください

天野先生:学生や地域起業家のプロジェクトの中には、家賃など固定費や、収益化の難しさから撤退に至るなど、資金面で立ち行かなくなるケースもあります。しかし私は、事業の失敗などは「人生においての失敗ではない」と考えています。失敗しても挑戦し続けること、大きくコケさえしなければよいのです。収益化が難しい場合でも、挑戦を通じて、起業家には自信が生まれて、場所での「面白いこと」を積みかさなり、地域から「変わったことをやっている」「自分も次挑戦してみようか」との連鎖がおき、ユニークな場所になっていけばよいと思っていますね。

「挑戦しない日本文化」と「応援なき社会」が壁! 地域を変える鍵は「ストーリー」

―― 現在、日本の地域社会がイノベーションを推進する上で抱えている最大の課題は何だとお考えですか?

天野先生:イノベーションや新しい挑戦を阻む最大の要因は、日本文化に根付く保守的、真面目すぎる気質にあると考えています。これまでは既存の型にはまったことを、地に足をつけて着実に行う姿勢が、うまく機能してきましたが、想像もしなかった前提の出現、例えばAIやITによるビジネスモデルの変革など、変化の激しい現代では逆効果になりつつあります。「新しい変化を望まず、白い飯を丁寧に炊く」という国民性、「言われたことだけをきちんとやれ」「とんがったこと、教えられていないことはするな」「出る杭は打たれるぞ」と教える義務教育以来の仕組みが、若者たちの新しい挑戦を阻害しているのではないでしょうか。

その結果、新しいことに挑戦し、変革を先導する人々を支援する仕組みやマインドが社会に欠如しています。チャレンジャーを冷遇し、足を引っ張ったりするような社会の風潮を打破し、金銭的な支援だけでなく、挑戦者を地域で応援し支える仲間づくりや仕組み、アントレプレナーシップの構築こそが必要です。

例えば大学でも、有名企業や公務員への就職が奨励される一方で、地域で起業したい学生や、海外で一発当てたい、動画配信やSNSで稼ぎたい学生、投資家、政治家や作家などを目指したいなど、尖った、ユニークな学生たちは周囲から冷遇され、私のところによくアドバイスや助けを求めにきます。就職指導も大事だけれど、彼らこそ伸ばさねば、地域、そして日本がどんどんつまらなくなります。そのため、大学ではビジネスプランコンテストを開催、メンターにつなぎ、学生たちの想いをバックアップしていますね。

【画像】四天王寺大学で実施されたビジネスコンテストのポスター(天野教授提供)
【画像】四天王寺大学で実施されたビジネスコンテストのポスター(天野教授提供)

―― 地域イノベーションを継続的に進めていくための「持続可能な仕組み」や「成功の条件」について、先生のお考えをお聞かせください

天野先生:地域活性化を持続させるために欠かせないのは、その「空間」における「人」×「時間」×「ストーリー」の三要素です。まず「人」は、挑戦を一人で終わらせず、立場や世代を超えた多様な人々、特に、たまたま大学に集った若者が参画し盛り上げていくこと。「時間」は、大学生の4年間を中心に、みなが入れ替わり立ち替わり知恵、力、金を出しあい、活動を次世代へ連鎖していくことです。

そして最も重要な「ストーリー」とは、地域固有の「らしさ」や「オリジナリティ」を掘り起こし、活動と結びつけることです。歴史に関するものでも、現代のものでも構いません。私のチームでは、羽曳野に伝わる白鳥伝説をモチーフにした「白鳥輪投げ」や、藤井寺の重要文化財である、水鳥埴輪にヒントを得た「あひるすくい」、世界遺産の古墳にからめて、埴輪のハリボテを作成、「はにわアーチェリー」など、地域のイベントで学生が企画します。 こじつけであっても、「既存の物語」に「新しい何か」を掛け合わせることで、地域活動に独自の意味と魅力を与えます。活動を経験した若者たちは、卒業後も、自分の住む街で、まちづくりに取り組みはじめることに期待しています。

20年後を見据えた教育戦略! 地域に「知恵と希望」を供給する大学のサバイバル術

―― 地域イノベーションにおける大学の役割、特に四天王寺大学や天野ゼミが果たしている独自の貢献は何でしょうか?

天野先生:文系主体の中堅規模の教育型私立大学が生き残るためには、日本全国を視野にいれるよりも、近隣エリアに根ざし、地元密着の地域社会への貢献に重点を置くことが重要ではないでしょうか。具体的には、地域に住み、地域で知見を生かし活躍、起業できる人材を育成・輩出することを目指しています。四天王寺大学は、開祖である聖徳太子の「和の精神」の実践をモットーにしています。これにはいろいろな解釈がありますが、特に大切にしているのは「利他の精神」。地域ボランティアなどに取り組み、地域の人に喜んでもらい、自分たちも楽しみながら活動していますね。

【画像】藤井寺駅周辺まちづくり協議会が主催する、にぎわいイベント「デラハロ」(天野教授=左端 提供)
【画像】藤井寺駅周辺まちづくり協議会が主催する、にぎわいイベント「デラハロ」(天野教授=左端 提供)

そのための施設として、藤井寺の商店街に、今年2025年末に「エリアデザイン・ラボ」を藤井寺の商店街に新たに立ち上げました。撤退した古い店舗のシャッターを開け、自らペンキを塗ったり、金槌やノコギリを手にリノベーションしたり、経営、教育、福祉など、さまざまな学部、学科の学生や教員が、それぞれの領域で地域と関わり合いながら活動を行う拠点となります。

天野ゼミでは、座学による理論学習よりも、「体験」と「行動」を重視しています。大学で学ぶ理論は、時間が経つと忘れがちです。私自身も、大学時代の教室で先生が喋ったことなど、何一つ覚えていません。しかし、仲間との共同作業や地域での活動といったノウハウや、経験として一生残り、自信ができ、人としての成長につながります。そして経営学部の特徴とすべきは、学んだ理論をもとに、実際にビジネスを体験、起業してみることです。そのために学生には、地域に飛び込み、いろいろな人と交流しながら具体的な活動に取り組み、学びを行動へとつなげ、収益もあげることを実践させています。

―― 卒業後に学生にどのようなことを期待されていますか?

天野先生:学生たちには、卒業後、大学で得た経験を出身地域に持ち帰り、サラリーマン化や、マンション化で希薄になった地域のつながりを再構築し、地域を魅力的にする担い手になってほしいと願っています。自分の住む地域の歴史、地名の由来や、そこの名物すら知らない、知り合いがいない、そんな社会を打破し、地域で起業したり、新しい取り組みを始めたりする若者が育つことを期待しています。

「生活のために、会社でなんとなく働く」生き方ではなく、「地域での自分の好きな働きを希望や生きがいにつなげる」そんな若者を増やしていきたいです。それによって、若者たちが「自分らしい生き方」を実現するとともに、活力と魅力あふれる、地域と新しい日本が再生していくものと思います。 

社会人が脱サラして起業を志すと、周囲から厳しい目を向けられがちです。しかし、学生が「地域のために何かしたい」「夢を叶えるおもしろいことをしたい」と立ち上がると、多くの人が応援してくれる。それこそが、学生ならではの大きな強みです。そうした経験を通じて成長した学生が、卒業後、地域とともに歩み、地域を支える人材、リーダーへと成長していくことを期待しています。

【画像】学生が自ら改造したキッチンカーで飲食を起業(天野教授提供)
【画像】学生が自ら改造したキッチンカーで飲食を起業(天野教授提供)

「よそ者・若者×地域の誇り」 内なる価値の再発見が未来を変える

―― 地域イノベーションを継続的に進めていくための「持続可能な仕組み」や「成功の条件」について、先生のお考えをお聞かせください

天野先生:地域イノベーションの成功や持続には、王道のメソッドがあるわけでもなく、人によりアプローチも違いますが、単に地域に新しい人、もの、金を持ち込むだけではなく、すでに存在する価値を再発見することが重要と思いますね。日本のどの地域にも、昔から存在する文化、人のつながり、風土、誇りがあります。眠っているポテンシャルに光を当て、既存の要素に新しいアイディアを組み合わせることで、新しい風を地域に起こし、イノベーションを生み出せると考えています。全国の地方都市が、大資本の進出などで同じようになっていく中で、地域の人さえ気づいていない価値を見出し、みんなでで育てていきたいです。

それには、地域内の大学や研究室がハブとしての役割を果たし、敷居が低い、いや全くない場所としてさまざまな人が出入りし知恵を出し合うことで、地域が輝き始めることができます。「よそ者」「若者」「馬鹿者」などの変革者を発掘・育成し、地域と結びつけることで、人のこころが通う、温かい動きを生み出し、イノベーションへとつながるのではないでしょうか。商店街のエリアデザイン・ラボはまさにそのような場所を目指しています。

―― 先生は、アントレプレナーシップ(起業家精神)が地域イノベーションに果たす役割をどのように捉えていらっしゃいますか?

天野先生:私が考えるアントレプレナーシップとは、スティーブ・ジョブズやイーロン・マスク、ソフトバンクの孫氏やユニクロの柳井氏のようなすごい起業家だけを指すのではなく、自分の力を信じて踏み出す勇気や、好奇心のことととらえます。それは小学生から社会人、公務員、引退した人まで、誰もが持つべきものだと考えています。特に地域では、地域課題を「自分ごと」として捉え、それぞれの立場から、失敗を恐れずに挑戦する一歩一歩が重要です。そうしたいろいろな人の小さな挑戦の積み重ねが、地域に新しい火を灯し、地域イノベーションを実現すると考えています。

天野ゼミでは、学生が地域起業家として活躍できるよう、有名企業への就職だけにとらわれず、自分らしい生き方を推奨し、さまざまな挑戦を支援しています。たとえば、中古トラックに自らペンキを塗り改造して、たこ焼き屋を始める学生、ウルトラマンなどのソフビ人形のコレクションの展示販売イベントを行う学生、ベトナム研修をきっかけに現地の学生と協働し、ベトナムサンドイッチ「バインミー」販売を計画する学生など。失敗を恐れず、学生の「やりたいこと」を全力で応援し、大人の作ったレールに乗らない彼らの挑戦を後押しします。1年生で起業に関心を持ち、2年で事業スタート、3年で軌道に乗せ、4年で就職せずに、地域でその事業を続けて食べていく、という流れを作りたいです。

【画像】ゼミ卒業起業家によるソフビ企画(天野教授提供)

「地域こそが教室だ!」DX時代に人と人の絆で未来を創る”三方よし”の地域再生論

―― AIや電気自動車(EV)の普及といった社会変革に対し、地域イノベーションはどのように対応すべきでしょうか。今後の展望と先生のビジョンをお聞かせください。

天野先生: ITやAIの発展により、場所に縛られない働き方が広がり、地域にいながら都市と同等の仕事ができる時代が来ています。しかし、一極集中などの課題が解消されるわけではありません。大切なのは、先端技術を取り入れつつ、地域に根ざした人と人とのつながりを育むことです。思いもかけないアイディアや企画はAIがつくれます。しかしその実行は生身の人間しかできません。実際に人が動くことこそが、持続可能な地域づくりの鍵になると考えています。EVは移動手段だけでなく、地域のエネルギー源、ビッグデータ収集やまちのセンサーになっていきます。

【画像】天野教授の巣窟「デラドーム」とEV(Tesla Model X)(天野教授提供)
【画像】天野教授の巣窟「デラドーム」とEV(Tesla Model X)(天野教授提供)

―― 最後に読者へのメッセージをお願いします。

天野先生:みなさんの住む地域こそが「最もリアルで、最も可能性に満ちた教室」となれます。先ほども述べましたように、四天王寺大学では、藤井寺の一番街商店街で、長年閉ざされていたシャッターを開き、誰もが利用できる学びの場「エリアデザイン・ラボ」をオープンしました。この空間は、「未来を変えたい、チャレンジしたい若者」と「地域の課題に取り組みたい人々」が出会い、新たな価値を生み出す拠点となることを目指し、これまでにない学びと体験を創造していきます。商店街に設けられた大学、学生の拠点は全国でも類をみないものです。ぜひ覗いてみてください。学生たちが卒業後も枠にとらわれず、それぞれの地域で自分らしい生き方や幸せを見いだし、挑戦、起業へ踏み出す、そんな循環をここで育てたいと思っています。

最終的な目標は、地域が「訪れてよし、住んでよし、そして起業業してよし」の“三方よし”の場所になることです。羽曳野や藤井寺だけでなく、日本各地の地方都市、衛星都市が独自の魅力を生かした地域へと発展していくことを願い、原動力となる人材を地域とともに育てていきたいと考え、挑戦を続けています。みなさんも夢を持ち寄り、語り合い、そして一緒にチャレンジしましょう!


【画像】エリアデザイン・ラボ 地域こそが「最もリアルで、可能性に満ちた教室」(天野教授提供)


天野 了一先生のご紹介リンク:
ー researchmap:天野 了一(Ryoichi Amano) – マイポータル

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日本の賃金が30年上がらない本当の理由|働いても豊かになれない構造とは https://ifrc.or.jp/wage-stagnation/ Wed, 07 Jan 2026 10:18:04 +0000 https://ifrc.or.jp/?p=2160

毎日一生懸命働いているのに、生活が楽にならない。そんな実感を持つ人は少なくないでしょう。実は、日本の賃金は1990年代から約30年間、ほとんど上昇していません。OECD加盟国の中でも最低レベルの賃金上昇率という衝撃的な現 […]]]>

毎日一生懸命働いているのに、生活が楽にならない。そんな実感を持つ人は少なくないでしょう。実は、日本の賃金は1990年代から約30年間、ほとんど上昇していません。OECD加盟国の中でも最低レベルの賃金上昇率という衝撃的な現実があります。一方で、企業の内部留保は過去最高を更新し続けています。

なぜこのような矛盾が生まれているのでしょうか。この記事では、日本の賃金が上がらない構造的な理由を、データとともに分かりやすく解説します。若い世代が将来を考える上で、知っておくべき日本経済の現実です。

バブル崩壊後の賃金デフレで失われた30年

1991年のバブル崩壊以降、日本経済は長期停滞に陥りました。この期間は失われた30年と呼ばれています。最も深刻な問題のひとつが、賃金の停滞です。

バブル崩壊後、日本の平均年収はピークから減少傾向が続きました。OECD加盟国の平均賃金推移を見ると、この30年間で、アメリカやイギリスは大幅に増加した一方、日本はほぼ横ばい、むしろ微減という状況です。先進国の中で賃金が上がっていないのは日本だけという異常事態が続いています。

グラフ:名目賃金・実質賃金の推移
出典:内閣府「第2-1-5図 一人当たり名目賃金・実質賃金の推移」

名目賃金は若干上昇していても、物価上昇を考慮した実質賃金は低下傾向にあります。給料は少し上がっても、生活費の上昇がそれを上回っているため、実際の購買力は下がっているのです。つまり、働いても生活は楽にならないという状況が続いています。

  • 名目賃金:物価変動を考慮しない、額面上の賃金
  • 実質賃金:物価変動を考慮した、実際の購買力を示す賃金

企業の内部留保は過去最高なのになぜ賃金は上がらないのか

積み上がる企業の現金

企業がため込む利益の合計を示す内部留保は、過去最高を更新し続けています。内部留保とは、企業が利益を配当や投資に回さず、社内に蓄えているお金のことです。

バブル崩壊後の不況を経験した企業は、将来のリスクに備えて現金を溜め込む傾向が強まりました。しかし、この姿勢が賃金上昇を抑制する要因になっています。

グラフ:企業における内部留保の推移
出典:厚生労働省「第2-(1)-15図 企業における内部留保の推移」

このデータを見ると、企業の内部留保が年々増加している一方で、従業員への還元が進んでいない実態が明らかになります。

株主重視と従業員軽視の経営

1990年代以降、日本企業は株主重視の経営にシフトしました。利益が出ても、それは配当や自社株買いに回され、従業員の賃金には還元されにくい構造になっています。

企業が利益をどう配分しているかを見ると、以下のような傾向があります。

  • 配当金:増加傾向が続く
  • 自社株買い:大企業を中心に活発化
  • 設備投資:慎重な姿勢が続く
  • 賃金:抑制的な傾向

この配分構造が、働く人々の所得を増やさない要因となっているのです。

生産性の低さと低価格競争に依存したビジネスモデル

先進国最低レベルの労働生産性

日本の労働生産性は、OECD加盟国の中で低い水準にあります。なぜ生産性が低いのでしょうか。主な要因として、デジタル化の遅れや非効率な業務プロセス、長時間労働を美徳とする文化などが挙げられます。

労働生産性:労働者一人あたり、または労働時間あたりが生み出す付加価値

生産性が低いということは、同じ時間働いても生み出す価値が少ないということです。これでは賃金を上げる原資が生まれません。

低価格競争に依存する経済構造

日本企業の多くは、高付加価値の商品やサービスではなく、以下のような低価格で勝負するビジネスモデルを採用しています。

  • コンビニの100円コーヒー
  • 格安居酒屋
  • 低価格の衣料品

消費者にとっては嬉しいサービスですが、その裏では従業員の低賃金が前提となっています。安く提供するためには、人件費を抑えるしかありません。この構造が、賃金上昇を妨げる大きな要因になっています。価格を上げられない企業は、賃金も上げられないのです。

労働組合の弱体化と賃上げ交渉力の低下

かつて日本の労働組合は、賃上げ交渉において大きな力を持っていました。しかし、労働組合の組織率は年々低下しています。ピーク時と比べると、大幅な減少です。

組織率:全労働者に占める労働組合員の割合

1990年代以降、企業は人件費削減のため、非正規雇用を増やしてきました。現在、労働者の約4割が非正規雇用です。非正規雇用者は労働組合に加入しにくく、個人で賃上げ交渉をする力もほとんどありません。

正社員であっても、終身雇用制度が崩れる中で、賃上げを強く要求しにくい雰囲気があります。会社に逆らえば、次の昇進や評価に影響するかもしれないという不安が、声を上げることを躊躇させているのです。

近年は高い賃上げ率となった年もありましたが、これは一時的な動きに過ぎず、構造的な問題は依然として残っています。

まとめ

日本の賃金が30年上がらない理由は、単一の要因ではありません。バブル崩壊後の企業の防衛的姿勢や株主重視の経営、低い労働生産性、低価格競争に依存したビジネスモデル、労働組合の弱体化など、複数の構造的な問題が絡み合っています。これらの問題を放置したまま、個人の努力だけで豊かになることは困難です。

若い世代が将来に希望を持てる社会にするためには、企業の利益配分の見直しや生産性向上への投資、適正な価格設定を許容する消費者意識の変化など、社会全体での構造改革が必要です。まずは現状を正しく理解し、自分たちの働き方や消費行動を見直すことから始めてみませんか。

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SaaSは本当に終わるのか|サブスク疲れと次世代ビジネスモデルへの転換 https://ifrc.or.jp/saas-business-evolution/ Wed, 31 Dec 2025 01:38:10 +0000 https://ifrc.or.jp/?p=2156

NetflixやSpotifyをはじめ、私たちの生活に深く浸透したサブスクリプションサービス。ビジネスの世界でも、クラウド上でソフトウェアを提供するSaaSが急成長を遂げてきました。しかし最近、SaaSは終わるのではない […]]]>

NetflixやSpotifyをはじめ、私たちの生活に深く浸透したサブスクリプションサービス。ビジネスの世界でも、クラウド上でソフトウェアを提供するSaaSが急成長を遂げてきました。しかし最近、SaaSは終わるのではないかという声が聞かれるようになっています。

企業も個人も、増え続けるサブスク料金に疲れを感じ始めているのです。本当にSaaSビジネスモデルは限界を迎えているのでしょうか。クラウドコストの高騰や解約率の上昇といった課題を抱える中で、次世代のビジネスモデルはどのような形になるのか。若い世代が将来働くかもしれないテック業界の大きな転換点を、分かりやすく解説していきます。

SaaSは終わると言われる理由

2010年代、SaaSは革命的なビジネスモデルとして注目を集めました。従来のソフトウェアは高額な初期費用を払って購入し、自社のサーバーにインストールする必要がありました。しかしSaaSなら月額料金を払えば、インターネット経由ですぐに使い始められます。初期投資が少なく、常に最新版が使えるという利便性から、多くの企業が導入を進めてきました。

SaaS(サース):Software as a Serviceの略で、インターネット経由でソフトウェアを提供するサービスモデルのこと。

日本のSaaS市場は2024年に約1.4兆円に達し、2028年には2兆円規模へ成長すると予測されています。世界市場も2024年に約48兆円、2025年には約72兆円に達する見込みです。

グラフ:日本のパブリッククラウドサービス市場規模
出典:IDC「国内パブリッククラウドサービス市場 産業分野別予測、2024年~2028年」

ところが2024年頃から、状況が変わり始めています。企業が契約しているSaaSの平均数は増え、その管理だけでも大きな負担になっているといいます。個人向けサービスでも同様で、気づけば毎月数千円から1万円以上の支払いが発生している人も珍しくありません。

サブスク疲れが広がる背景

企業と個人、それぞれが抱えるサブスク疲れの実態を見てみましょう。

日本国内の消費者向けサブスクリプション市場は、2022年に約8,965億円に達しました。2021年の7,875億円から約12%増加しており、市場は拡大を続けています。しかし、利用者の約40%が過去1年以内に何らかのサービスを解約したという調査結果もあります。

サブスクリプション(サブスク):サービスや製品を、利用期間に応じて月額・年額で利用料を支払うビジネスモデル。

出典:株式会社矢野経済研究所「サブスクリプションサービス市場に関する調査を実施(2023年)」

企業が直面している課題としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 部署ごとに契約したSaaSが重複して無駄なコストが発生している
  • 年々値上げされる料金に予算が追いつかなくなっている
  • 従業員が退職してもアカウントが残り不要な支払いが続いている

企業だけでなく、個人の場合も深刻です。動画配信、音楽配信、オンラインストレージ、ニュースアプリなど、複数のサービスに加入することで家計を圧迫するケースが増えています。

SaaSビジネスモデルが抱える構造的な問題

SaaSビジネスモデルには、いくつかの構造的な限界が見えてきています。

まず解約率の問題です。競合が増え、顧客は簡単に他社サービスへ乗り換えられるようになりました。次に価格競争の激化です。似たような機能を持つサービスが乱立し、差別化が難しくなっています。

上場SaaS企業のARRを見ると、上位のARR300億円を超える企業は依然として年率25%以上の成長率を維持していますが、中位以下の企業では成長率が10%を下回るケースも出始めています。市場が成熟期に入りつつある現在、SaaS企業の二極化が進行しているのです。

ARR(エーアールアール):Annual Recurring Revenueの略。年間経常収益のことで、SaaS企業の成長を測る重要な指標。

次世代ビジネスモデルの可能性

SaaSが終わると言われる一方で、新しいビジネスモデルも生まれています。

注目される次世代モデルとしては、AI統合型サービス、従量課金制の進化、垂直統合プラットフォームがあります。特にAI統合型サービスは大きな可能性を秘めています。従来のSaaSは、人間が操作するためのツールでした。しかし次世代のサービスは、AIが主体となって業務を遂行します。

例えば、経理ソフトに数字を入力するのではなく、AIが自動的に請求書を読み取り、仕訳を行い、支払いまで完了させるといった具合です。日本を代表するSaaS企業も、変化に対応しようとしています。以下3つの企業の例を見てみましょう。

名刺管理サービスのSansan

単なるデータベースから、営業活動全体を支援するプラットフォームへと進化を遂げている

会計ソフトのfreee

中小企業向けに特化しながら、給与計算や請求書発行など、バックオフィス業務全般をカバーする方向へ拡大している

人事労務ソフトのSmartHR

人事データを中心に、採用から退職までの従業員ライフサイクル全体を管理できるプラットフォームを目指している

これらの企業に共通するのは、単機能のツールから業務全体を支援する総合プラットフォームへの転換です。顧客にとっての価値を高めることで、長期的な関係を築こうとしているのです。

まとめ

SaaSは終わるのではなく、進化のフェーズに入ったと言えるでしょう。サブスク疲れやクラウドコストの高騰といった課題は確かに存在しますが、それは次のステージへ進むためと言えます。単にソフトウェアを提供するだけでなく、AIを活用して業務そのものを変革する。複数のサービスを統合し、顧客の負担を減らす。

こうした進化を遂げられる企業が、次の時代を生き残っていくはずです。若い世代の皆さんがこれから社会に出る頃には、今とはまったく違うビジネスモデルが主流になっているかもしれません。テクノロジーの進化は止まりません。変化を恐れず、新しい価値を創造する姿勢こそが、これからの時代に求められるのではないでしょうか。

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AIは神様じゃない! 現場を救う「設計」と未来を開く「香りの言語学」|巳波 弘佳 氏 https://ifrc.or.jp/miwahiroyoshi-prof/ Fri, 26 Dec 2025 05:23:01 +0000 https://ifrc.or.jp/?p=2149

インタビュー取材にご協力いただいた方 巳波 弘佳 (みわ ひろよし)氏 関西学院大学 副学長 情報化推進機構長 AI活用人材育成プログラム統括 工学部教授 1992年東京大学理学部数学科卒業。日本電信電話株式会社通信網総 […]]]>

インタビュー取材にご協力いただいた方

巳波 弘佳 (みわ ひろよし)氏 
関西学院大学 副学長 情報化推進機構長 AI活用人材育成プログラム統括 工学部教授

1992年東京大学理学部数学科卒業。日本電信電話株式会社通信網総合研究所研究員。2000年博士(情報学)(京都大学)。2002年関西学院大学専任講師。2006年関西学院大学助教授。2007年関西学院大学准教授(職名変更)。2012年関西学院大学教授となり、現在に至る。
研究分野は情報科学、数学、数理工学、アルゴリズム工学、離散数学、最適化、アルゴリズム、AI(人工知能)、CG(コンピュータグラフィクス)、ビッグデータ、インターネットなど。

AI を「なんでも解決できる『神様』」と誤解したまま導入が進む現場が迷走する一方で、「本質を見極める設計こそが未来を拓く」と語るのが、関西学院大学副学長の巳波弘佳先生です。かつて『のだめカンタービレ』の高速ピアノ演奏をアニメで再現するため、誰もできなかった指の動きを理論的に復元可能にした経験は、まさにその象徴。AI も同じく「正しい設計」がなければ力を発揮しないと語ります。巳波先生は今、香りの言語学など新領域にも挑みながら、AI 時代の「本質思考」の重要性を問い続けています。

AIの誤解を解く!「なんとなく導入」が招く現場の迷走と、未来を拓く「香りの言語学」

―― 先生が現在、最も注力されているAI の研究テーマは何でしょうか?

巳波先生:私自身は、AI技術そのものよりもむしろ、それをどのように活用するかということに関心があります。社会課題やビジネス課題を解決するためには、AIも一つの部品として組み込んだ策が必要です。AIは、「デウス・エクス・マキナ」※1的になんでも解決できる「神様」ではありません。単なる一つのアルゴリズムでしかなく、できること・できないことがあるので、それを見極めた上で、他の部品を組み合わせて、課題の解決策という巨大な構築物を作る必要があります。なお、それを丸ごと指してAIといわれがちですが。AIというものを誤解させる危険性があります。解決策という巨大な構築物を作るためには、業務や顧客ニーズなどをよく理解した上で適切に設計しなければならないため、それを考えること自体も研究です。この「設計の重要性」を理解せず、AIを過大評価することに私は強い懸念を抱いています。

―― その「懸念」、つまり AI というものを誤解させる危険性があるというのは、具体的にどういうことでしょうか?

巳波先生:企業におけるAI導入の最大の課題は、経営層が「AIを入れれば何かできるだろう」という漠然とした期待に基づいて指示を出すため、現場が「使えるようになったが、次に何をすべきか」と迷走することです。これは、かつてチャットボット導入時に膨大な準備作業(Q&A作成)を怠った失敗の繰り返しです。AI導入を成功させるためには、「目的を明確にし、その道筋を具体的に言語化する」ことが欠かせません。生成AI時代において、この目的の「言語化」ができている企業とできていない企業との間で、生産性の格差はさらに拡大していくと危惧しています。

―― 先生が最近特に興味を持たれているAI技術は何でしょうか?

巳波先生:私はさまざまな分野の研究を手掛けていますが、最近は、「香りの言語学」の研究がマイブームの一つです。大規模言語モデルを用いてアプローチするもので、注目いただいています。香りだけでなく、広い意味での言語で表せるもの、言語としてモデル化できるものは、大規模言語モデルとの相性が良いため、これまで限られた方向からのアプローチしかなかった対象を扱うことができるようになります。それがたいへん興味深く、新たな研究領域の開拓を楽しんで行っています。

―― 「香りの言語学」の研究内容について教えてください

巳波先生:「香りの言語学」では、香料会社と共同で研究を進めています。たとえば、飲料メーカーや食品メーカーから「爽やかなオレンジの香りを作ってほしい」といった依頼があった場合、これまではフレーバリスト※2が最適な香りのサンプルを提示していました。このシステムは、その調香プロセスをAIが自動で提示することを目指すもので、現在は約 90%の精度で実現に近づいています。この研究の要点は、香りを表す言葉と実際の香りを結びつけるという新しいアプローチにあります。従来のアンケートによる主観評価や化学成分量に基づく研究とは異なり、「言葉の表現」を起点に香りを生み出す新たな領域を拓く試みとして、強い関心を持って取り組んでいます。

※1「デウス・エクス・マキナ」:「機械仕掛けの神」という意味。古代ギリシャ劇の終幕で、上方から機械仕掛けで舞台に降り、紛糾した事態を円満に収拾する神の役割。都合の良い強引な解決策という意味もあります。

※2フレーバリスト:食品の風味や香料を調合する専門家である調香師の一種。

つぎはぎ文章の限界 RAG×人間の判断で実用性を高める

―― ChatGPT のように非常に巨大なAIを、企業や個人の生活の中にある特定の小さな用途に合わせて効率的かつ簡単に活用するためには、どのような工夫が必要で、どこに技術的な難しさがあるのでしょうか?

巳波先生:ChatGPTやGemini、Copilotといった大規模AIモデルは、大量のデータから「平均的な」回答を導くことには長けていますが、特定の専門分野では性能が低下し、論理的な演繹を行わないため、数学の証明のような厳密さが求められる問いでは誤った結果を出しやすいという課題があります。

企業がAIを実用的に活用するためには、汎用AIにすべてを任せるのではなく、RAG(Retrieval-Augmented Generation)※3などの技術を活用し、質問意図の理解や自然な文章生成はAIに、内容のファクトチェックは企業内データを参照に人間に分担させることが重要です。つまり、AIの誤りを完全に排除することは原理的に困難であるため、最終的なファクトチェックを人間が担うワークフローは欠かせません。

―― 文章作成において、現状では生成AIがライターの役割を担うようになっています

巳波先生:最近の生成AIには、生成した文章の根拠となる情報源を提示できる機能を備えたものも登場し、誤りを減らすための工夫が進んでいます。しかし、正確性を追求するあまり、生成される文章が参照元のWebサイトから情報をそのまま継ぎ接ぎしたようなものになりがちです。率直に言えば、それでは魅力に乏しく、「刺さる」文章にはなりません。

正確さを求め、根拠を明確に示そうとするほど、読み手の心に強く残る印象的な文章からは遠ざかってしまうというジレンマがあります。この「正確性」と「刺さる文章」の両立という非常に難しい領域を、ぎりぎりのバランスで成り立たせられるのがプロのライターの卓越した技量であり、現状の生成AIがその領域に到達するのはまだ相当に難しいのではないかと考えています。

※3 RAG(Retrieval-Augmented Generation):「検索拡張生成」という意味。検索機能と生成AIを組み合わせたもの。大規模言語モデル(LLM)が外部のナレッジベースや独自データを利用し、回答を生成する仕組み。

AIは「燃費」との戦いへ アルゴリズムの限界とハード技術のリアル

―― 高性能なAIには莫大な電力が必要です。今後、より省エネで「燃費の良い」AIを実現するには、どんな技術的ブレイクスルーが必要だとお考えですか?

巳波先生:AIも結局はプログラムに過ぎないので、そのアルゴリズムの計算量が「燃費」に直結します。AIの計算量を根本的に削減する方法は現在のところ知られていませんし、おそらく理論的に困難と考えられています。現在のアルゴリズムの考え方に基づく限り、計算量の大幅な削減は難しいと思われますが、GPUなどハードウェアの消費電力を抑えるというアプローチも考えられますね。こちらの方はまだ削減の余地は大きいと思われます。

―― ハードウェアの省電力についてはいかがでしょうか?

巳波先生: GPUなどのハードウェア側での消費電力削減の研究は進んでいますね。具体的には、計算処理の必要性に応じて、例えばGPUの一部の計算のみが進むフェーズでは、使用しない他の部分を休止モードに入れるなど、非常にきめ細かい電力制御が行われています。常にプロセッサーをフル稼働させるのではなく、処理の変動に合わせて消費電力を下げることで、全体の省電力化を図ることが可能です。

「だいたい合っている」AIの限界 論理と防御の壁を乗り越えられるか?

―― AIが判断理由を説明できないことがあります。これを人間に分かりやすく示す技術について、現状の課題と今後の進化をどのようにお考えですか?

巳波先生:理由を示すAIの研究開発も進んでいます。ただ、論理的演繹には膨大な計算量が必要で、それを根本的に削減することは理論的に困難と考えられています。しかし、実用的には、判断理由は数学的に厳格でなければならないという場面ばかりではありません。それなりの理由で十分なことも多いため、それであれば、現在でもある程度のものは出せるようになっていますし、その性能も向上していくことでしょう。例えば「香りの話」でなぜその香りを選んだのかという理由をAIに尋ねた際、「お客さまからオレンジの香りが欲しいと言われ、オレンジといえば爽やかだから、爽やかな香りのものを選びました」といった、厳密な数学的論理に基づかない、ある程度外していない理由を示すことはできるようになっています。

先ほどもお伝えしましたが、現在のAIが苦手なのは、証明のように論理的な演繹を必要とするタスクです。私自身、京都大学の入試問題「tan1°が無理数であることを証明せよ」をAIに解かせ、定点観測※4していますが、当初はデタラメな証明しか返さず、徐々にもっともらしいものは出せるようになっても、どこかに論理的な誤りが残ります。これは、AIが論理的演繹を苦手とする基本原理によるものです。答えのある問題であれば正しく答えられますが、新しい証明を積み重ねて解かせることは原理的に困難で、計算量も膨大になるため、現状では非常に難しい課題です。

※4 定点観測:特定の場所や対象を継続的に観察し、その変化を時系列で分析する手法

―― また、AIはわずかなノイズで誤判断することや、不適切な学習データによる「汚染」を受けるリスクがあります。こうした脆弱性への防御策についてはいかがでしょうか?

巳波先生:判明したものについては対応策が研究開発されていきますが、完全に防ぐのは困難かもしれません。人間には錯視などさまざまな錯覚がありますが、これは「バグ」ではなく、効率の良い認識や判断ができる能力を得たことの副作用という見方もあります。性能と誤認識の間にはトレードオフの関係がある場合もあるため、アプリケーションによっては適度なところで手を打つこともありうるでしょう。

外部からの攻撃や不適切なデータによる「汚染」を防ぐために、多層的な防御が整備されています。例えば、入力が攻撃に該当するかどうかを事前に判定する専用のAIを手前に配置し、不正なデータを遮断する仕組みがあります。また、学習データに対しても、人間が決めた基準を別のAIに学習させ、不適切なデータを自動的に判別・フィルタリングする仕組みも導入されています。過去の事例からも、無防備な状態ではAIがデータに「汚染」される可能性は常に存在するため、人間の感覚を踏まえた多重のガードが欠かせません。

テレビともネットとも違う、AI特有のリスクとは? 子どもにどう使わせるべきか

―― AI が社会に浸透する中で、特に倫理的、法的な課題について、研究者の立場からどのような対策や議論が必要だとお考えですか?

巳波先生:著作権や個人情報保護のようなものは、AI 技術と法律両方に詳しい人材がこれから増加するにしたがって、さまざまな案が提案されて議論され、社会的合意の取れる落としどころに収束するでしょう。

―― 最近は子どもたちもAIに触れる機会が増えています。

巳波先生:私が懸念するのは、誰でも自由に使えることの影響の大きさです。子どもの発達段階によっては、AI の回答を無批判的に信じてしまう危険性もあります。そのため、自我が発達していない子ども(に限らないかもしれませんが)が洗脳される危険性もあります。これは、かつてのテレビやインターネットに対して懸念されていたものよりもはるかに大きな危険性だと思います。

テレビやインターネットは、一方的に情報を与えるものに留まっていましたが、現在のAIは対話できる存在であるため、AIが人間と同等の影響力を持ちうるからです。だからといって、一定年齢に達するまでは利用を一律に禁止するということは現実的ではありませんし、適切に設計されたAIであればむしろ有用でしょう。子どもの発達段階に応じてどのようにAIに触れさせるのか、使わせるか使わせないかの二者択一ではなく、どのように使わせるかという点で、これまで以上に注意深く扱う必要があると考えています。

―― では、どのように使わせるのが望ましいでしょうか?

巳波先生:AIは学習の個別化には非常に有用です。例えば、子どもの理解度やこれまでの経歴に応じて、その子が弱い分野の理解が深まるような問題を個別に出題してくれるといった個別学習のサポートや、英会話の相手役や文章の添削といったニュートラルな使い方であれば、非常に有用だと考えています。

AIは単なる「部品」! 研究の醍醐味は、数学の槍を闇に投じ、実世界をデザインすること

―― 先生がAI研究を始められたきっかけや動機は何だったのでしょうか?

巳波先生:私自身は数学の研究を自分の軸としています。ただし、理論だけに留まるのではなく、それを現実の社会に役立てるところまで研究開発を進めたいと考えています。大学時代、数学科で特に微分幾何や代数解析を学んでいましたが、理論のための理論の研究だけに留まっていて良いのだろうかと自問するようになり、数学と社会をつなげたいと考え、企業の研究所で情報ネットワークの設計・制御に関する研究開発に携わるようになりました。やがて、情報ネットワークだけではなく、もっと広い世界に関わりたいと考え、偶然ご縁のあった現在の大学において、分野を問わず、理論から実用化まで取り組んでいます。

私にとって、AIはツールや部品の一つに過ぎません。先にも述べてきたように、狭い意味のAI技術だけですべて済むことはなく、さまざまな技術を組み合わせてアルゴリズムを設計することが必要になります。数学、特に離散数学や最適化理論を用いることが多いのですが、他のさまざまな理論も組み合わせることで、より良いものが生まれると考えています。

―― 研究活動を通じて、これまでに感じた最大の困難と、それを乗り越えたエピソードや研究の醍醐味についてお聞かせください

巳波先生:AI そのものの研究だけに限りませんが、困難は何度もありました。やはり数学の理論を対象にした研究では、証明ができるまでは精神的にかなり厳しいものがあります。たぶん成り立つと思えて、証明できそうなのに、詰めていこうとするとするりと逃げていきます。これを試行錯誤しながら追い詰めていかなければなりません。映画監督のイングマール・ベルイマンの言葉に「闇の中に槍を投げる。それが直感だ。次に、槍を探すために暗闇に軍を送らなければならない。それが知性だ」というものがあります。まさにその感じです。槍が落ちている場所までの細く長い道筋が見えた瞬間、そしてそれを何度もたどって確信できた瞬間の爆発的な喜びが、私にとっての研究の醍醐味です。それは数学の証明だけではなく、他の研究においても同様で、アイデアを実現するための道筋が見えた時の感動はなにものにも代えられません。

―― 理論と実践を組み合わせた事例について教えてください

巳波先生:目の前の課題に対しては、「動けばいい」と考えるのではなく、「本質的な課題は何か」を深く掘り下げ、必要であれば理論まで立ち戻ることが重要だと考えています。以前、テレビアニメ『のだめカンタービレ』のピアノ演奏シーンの制作に携わった際に、そのことを強く実感しました。きっかけは、制作会社から「ピアニストの速い指先の動きを再現してほしい」という相談を受けたことです。これまで誰も成功した例がなく、アニメーターでも対応できませんでした。多くの専門家は「モーションキャプチャーでできるはず」と断言していましたが、実際には指の動きが速すぎて欠落やノイズだらけとなり、モーションキャプチャーには明確な限界がありました。

そこで私は、手や指の動きの力学にまで立ち返って考え、乱れたデータから元の軌道を復元することを最適化問題として扱えば、うまくいくのではないかと気づきました。この理論的なアプローチを試みたところ、実際にうまくいき、アニメのシーンとして実現することができました。この経験によって、モーションキャプチャーのような単純な手法に頼るだけでは不十分で、課題の本質に立ち戻って数学や理論と結びつけることが、実用レベルのブレイクスルーにつながることがわかりましたね。

「楽しむ者が最強」 AI 時代を切り拓くためのマインドセットとは?

―― AI時代において、大学で情報科学やAIを学ぶ学生は、どのようなスキルやマインドセ ットを身につけるべきだとお考えですか?

巳波先生:AIや情報科学の分野だけではなく、なんであっても同様ですが、「楽しむ」「おもしろがる」精神だと思います。孔子の言葉を収めた論語の中に、「これを知る者はこれを好む者に如かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如かず」というものがありますが、楽しんでいる者が強いのです。それから、「これは何の役に立つのか」と問う評論家的態度ではなく、「役に立たせてみせる」というマインドセットが重要だと思います。他人が見捨てたものでも、うまくやれば良いものになるかもしれません。「役に立つ」かどうかは既存の常識の範囲で判断することが多いものです。それでは新しいことは生み出せません。最初は役に立つのかどうかよくわからないものでも、それをなんとかうまくやろうという精神が道を拓くと思います。

―― 最後に読者の方に向けてメッセージをお願いできますか?

巳波先生:「楽しむ」「おもしろがる」「役に立たせてみせる」精神です。知的好奇心を持って、アンテナを広げて、さまざまな分野にどんどん飛び込み、それらをつなげ、良いものを創り上げようと考えて行動しているうちに、形になるものがいくつも出てくるでしょう。まさに、フランスの細菌学者ルイ・パスツールが言ったように、「幸運は用意された心に宿る」のです。


巳波 弘佳先生のご紹介リンク
– 巳波 弘佳 | 関西学院大学 教員情報

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43兆円を使っても子どもが増えないのはなぜ?日本の少子化対策が空回りする理由 https://ifrc.or.jp/japan-birthrate-failure/ Mon, 22 Dec 2025 06:40:15 +0000 https://ifrc.or.jp/?p=2131

近い将来、自分が親になる姿を具体的にイメージできる方はどれくらいいるでしょうか。政府は現在、少子化を食い止めるべく43兆円という巨額予算を投じていますが、出生率は過去最低を更新し続けています。 なぜ多額のお金を使っても子 […]]]>

近い将来、自分が親になる姿を具体的にイメージできる方はどれくらいいるでしょうか。政府は現在、少子化を食い止めるべく43兆円という巨額予算を投じていますが、出生率は過去最低を更新し続けています。

なぜ多額のお金を使っても子どもは増えないのでしょうか。今回は、数字の裏に隠された社会の仕組みを紐解きながら、若い世代の皆さんの将来に直結する少子化対策の本質を、金融・経済の視点から分かりやすく解説していきます。

少子化対策の歴史

日本の少子化対策が本格的に議論され始めたのは、1989年の「1.57ショック」がきっかけでした。当時の出生率が戦後最低を記録したことで国は慌てて対策に乗り出しますが、その歩みは常に状況を追いかける形となりました。1994年の「エンゼルプラン」以降、保育所の整備や育児休業制度の拡充が図られてきました。

それから約30年、対策の内容は徐々に手厚くなり、近年では「異次元の少子化対策」として児童手当の所得制限撤廃や、出産費用の保険適用などが打ち出されています。しかし、実際の推移を見ると、30年前と比較して出生率は大幅に低下していることが分かります。

母の年齢平成6年(1994)11年(1999)16年(2004)21年(2009)26年(2014)令和元年(2019)令和6年(2024)
15〜19歳0.01890.02420.02750.02490.02240.01370.0082
20〜24歳0.21440.19040.18590.17790.14870.12430.0764
25〜29歳0.63330.50120.43880.43200.42040.38580.3064
30〜34歳0.48820.45830.43640.47550.50340.49400.4369
35〜39歳0.13070.15010.17550.22170.27470.28050.2565
40〜44歳0.01420.01770.02390.03540.05160.06090.0608
45〜49歳0.00040.00050.00060.00090.00140.00170.0021
合計1.501.341.291.371.421.361.15
出典:厚生労働省「令和6年(2024)人口動態統計月報年計(概数)の概況」

合計特殊出生率:1人の女性が一生の間に産む子どもの数の平均値。人口を維持するには約2.07が必要とされていますが、現在の日本は1.2前後まで低下しています。

この推移を見ると、特にかつてのボリュームゾーンであった20代の出生率が激減しており、30代以降への「晩産化」が進んでいることが鮮明です。しかし、その30代以降の微増も、20代の減少をカバーするには全く至っていません。

なぜ予算を使っても効果が出ないのか?

43兆円という予算規模は非常に大きく見えます。しかし、その中身を精査すると、少子化の根本原因を解決するには不十分な点が目立ちます。多くの専門家が指摘するのは、政府の支援が現金給付という表面的な対策に偏りすぎているという点です。

もちろん、児童手当が増えることは子育て世帯にとって心強い支えになります。しかし、今の若い世代が子どもを持つことを躊躇しているのは、目先のお金が足りないからだけではありません。以下のような、社会的な問題が大きな壁となっているのです。

  • 雇用の不安定さ:非正規雇用の割合が高まり、将来の安定した収入が見通せない。
  • 過度な教育費負担:大学までの教育費が高騰し、子どもを持つことが「経済的なリスク」と捉えられがち。
  • 共働きの限界:仕事と育児を両立させようとしても、長時間労働を前提とした企業の文化が変わっていない。
  • 将来不安の増大:社会保障制度への不信感から、自分の生活を守ることで手一杯になってしまう。

これらは、手当を数万円増やすといった施策だけで解決できるものではありません。家賃が高く、残業が当たり前で、将来の雇用が不安な社会において、現金給付だけで安心して子どもを産もうと思える人は少ないのが現実です。

若い世代が子どもを持てない本当の理由

今の若い世代にとって、経済的な安定は結婚や出産を考える上での大前提です。かつての日本のように「結婚すればなんとかなる」という楽観論は通用しません。むしろ、しっかりとした経済基盤がなければ、子どもに不自由な思いをさせてしまうと考える、非常に責任感の強い方が増えています。

ここで注目したいのが、経済学でいう「機会費用(オポチュニティ・コスト)」という概念です。

機会費用:ある選択をしたことで、諦めなければならなくなった利益のこと。子育てにおいては、仕事を休むことによる生涯年収の減少や、自己研鑽の時間の喪失などを指します。

現在の日本では、特に女性が子どもを持つことによる機会費用が高くなっています。一度キャリアを中断すると元のキャリアに戻ることが難しかったり、昇進が遅れたりすることで、生涯年収が数千万円単位で減少するケースも少なくありません。

また、価値観の多様化も大きな要因です。人生の幸せを家族を持つことだけに求めず、仕事や趣味、自己実現に価値を置く人が増えました。こうした中で、経済的な不安を抱え、自分の時間やキャリアを犠牲にしてまで子どもを持つという選択が、以前よりも選ばれにくくなっているのです。

海外の成功事例と日本の決定的な違い

少子化は先進国共通の悩みですが、対策に成功している国も存在し、その筆頭がフランスです。フランスは1990年代に一時的に出生率が下がりましたが、その後見事に回復させました。日本とフランスの最大の違いは、支援の厚みと多様な生き方への寛容さにあります。

フランスの事例から、日本が見習うべきポイントを整理してみましょう。

  1. 事実婚の法的保護:PACS(連帯市民協約)により、結婚という形に縛られなくても家族として手厚い支援が受けられる。
  2. 教育費の負担軽減:大学までの教育費がほぼ無償であり、親の経済力に関わらず子どもが学び続けられる環境がある。
  3. 「産みやすさ」より「育てやすさ」:一時的なお祝い金ではなく、子どもが成人するまでの生活を社会全体で長期間支える仕組みが整っている。

北欧諸国も同様に、高い税金を払う代わりに、育児や教育の不安を国が解消してくれる「高福祉・高負担」のモデルを確立しています。対する日本は、負担は増え続けているのに支援は断片的であるため、将来への安心感を実感しにくい構造になっています。国の役割はお金を配ることではなく、若い世代が「この国なら子どもを育てたい」と思える長期的な信頼を築くことにあるはずです。

まとめ

少子化は単なる子ども不足ではなく、若い世代が未来に希望を持てない社会の映し鏡です。43兆円という予算がばらまきではなく、教育の無償化や雇用の安定といった構造改革に使われるかどうかが鍵となります。

皆さんが将来の選択をするとき、お金やキャリアの不安を理由に自分の理想を諦めなくて済むよう、社会全体での大きな転換が求められています。政府の施策を自分事として捉え、これからの社会を一緒に考えていきましょう。

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伝統工芸はなぜ残る? 漆工芸の研究から見えた「変わる力」と「ものづくりの真価」|成田 智恵子氏 https://ifrc.or.jp/naritachieko-prof/ Tue, 16 Dec 2025 00:47:27 +0000 https://ifrc.or.jp/?p=2078

インタビュー取材にご協力いただいた方 成田 智恵子(なりた ちえこ)氏 京都産業大学 文化学部 京都文化学科・准教授 大学卒業後に京都伝統工芸大学校で蒔絵を学んだのち、京都工芸繊維大学工芸科学研究科先端ファイブロ科学専攻 […]]]>

インタビュー取材にご協力いただいた方

成田 智恵子(なりた ちえこ)氏 京都産業大学 文化学部 京都文化学科・准教授

大学卒業後に京都伝統工芸大学校で蒔絵を学んだのち、京都工芸繊維大学工芸科学研究科先端ファイブロ科学専攻に進学。2020年から現職。専門分野は伝統工芸、技能継承、高分子材料。京都の工芸職人を対象としたインタビュー調査とともに、工芸材料の調査・分析に取り組んでいる。共編著に『京の美の奇想』京都新聞出版センター、2025年他。

京都産業大学で文理融合型の研究を進める成田智恵子准教授は、フィールド調査と材料科学という二つの視点から漆工芸の最前線と生産基盤の現状を探っています。技能継承を阻む「働き方改革」の影響、若手職人を育てるための「ベースの需要」の不足、さらに蒔絵粉の製造業者がわずか二社にとどまる現状を踏まえ、共同研究に取り組んでいます。本インタビューでは、「変わり続けることで受け継がれてきた」伝統工芸の本質を明らかにするとともに、デジタル時代に私たちがものづくりから何を学び、どのように未来を築くべきかをひもときます。

ただの技術じゃない!「人の願いを叶える」伝統工芸の底力

―― 先生が伝統工芸と伝統意匠を研究のテーマに選んだきっかけについて教えてください。

成田先生:もともとは職人になりたいと思っていたんです。当初は伝統工芸とは関係のない大学に在籍していましたが、卒業後、京都の伝統工芸を扱う専門学校に2年間通いました。専門学校ではさまざまな伝統工芸を学ぶことができましたが、漆工芸の加飾技法である蒔絵(まきえ)に最も惹かれ、その技法を学ぶコースを専攻しました。

蒔絵に興味を持ったきっかけは、小学校の社会科の授業で見た蒔絵にあります。当時は名前を覚えていなかったのですが、専門学校のパンフレットを見たときに「あれだ」と直感して、蒔絵を学ぶことを決めました。専門学校で伝統工芸の実技を学んだ経験をきっかけに、大学院(修士・博士)に進学し、伝統工芸の材料研究や職人へのインタビュー調査に取り組みました。

―― 伝統工芸は現代のものと融合させて、様々な工夫を凝らしています

成田先生:伝統工芸は時代に沿って変化しています。京友禅のシャツやバッグなど、現代のニーズに合わせた新しいアプローチで工夫している現状も多くの人に知ってほしいですね。

―― 先生が考える「伝統工芸」の最も重要な本質とは、単なる技術や製品ではなく、どのような点にあるとお考えですか?

成田先生:単なる技術や製品ではなく、「他者の、あるいは自分自身の願いを叶えていく」というところにこそ、本質があると考えています。かつて手仕事が主流だった時代から、現代に至るまで手仕事の魅力に惹かれて伝統工芸に携わる人がいるのは、「欲しい」と願う使い手の気持ちとそれに応える作り手の技能や知見があるからです。

ですから、「誰かが欲しいと願うものを、自らの手で形にしていく」行為そのものが、ものづくりの根幹をなしているのだと思います。

若手職人を育てる鍵は「ベースの需要」と「目利き」の育成戦略

―― 現在、伝統工芸における「人から人への継承」が直面している具体的な最大の課題は何だとお考えですか?

成田先生:人から人へと受け継がれる技能継承が直面している最大の課題の一つに、「働き方改革」の波があります。伝統工芸の技能はマニュアル化が難しく、職人の身体知や長年の経験に深く結びついています。従来の徒弟制度のように、長い修行と時間をかけて技能を習得するあり方が、時間給や残業規制といった現代の労働環境と合わなくなってきています。

たとえば、一定の時間内に工芸品を1個しか作れない新人と、10個作れる師匠が同じ時間給では成り立たず、「育成のための時間」をどう確保するかが課題となっています。若い世代が参入しようとしても、親世代から反対されるケースもあり、社会全体と伝統産業のあいだに大きなギャップが生じています。職人として一人前になるまでの期間は、工芸の種類や人によってそれぞれ異なります。一概に「何年」といった画一的な基準で測ることはできません。

―― 若手職人さんが技能を発揮できる場の減少や、「目利き」の減少といった産業全体の問題について、どのような対策が必要だとお考えですか?

成田先生:かつての職人は、多様な需要を支えに、多くの仕事をこなしながらスキルを身につけてきたと伺っています。しかし、現代では特殊な注文や一点ものの需要が増え、若手が修行を積むための「基礎的な需要」が減少していることが課題となっています。この状況を解消するには、若手が基礎段階の修行を積めるような仕事の需要を確保することが必要です。

「目利き(めきき)」の減少に対しては、「素材に関する知識」を広めることも重要です。完成品だけを見るのではなく、その素材を通して「それはどういうものなのか」「どのように扱うのか」というプロセスを理解することが、目利きを育むきっかけになると考えています。具体的には、「螺鈿(らでん)」技法の一種で、薄貝を針で切る技法など、基礎的な素材や技術に実際に触れてもらう体験活動を、研究の一環として実施しています。

―― 現代の製品やデザインに応用する際、伝統的な意匠を「守り伝える」ことと、「現代に合わせて変化させる」ことのバランスをどのように取るべきだとお考えですか?

成田先生: 伝統的な意匠を守り伝えることと、現代に合わせて変化させることのバランスを考えるうえで、「基礎的なことを学び、しっかり身につける」ことが土台であり、応用だけに偏らないことが大切です。基礎があってこそ、伝統的な継承も、令和の工芸としての新たな創造も可能になります。本質的な技能や知識を深めるためには、やはり体系的な学びが欠かせません。

文理融合が解き明かす伝統の力。漆、高分子材料から迫る蒔絵研究の独自性

―― 先生は美術史や高分子材料といった文理の垣根を超えた研究をされていますが、理系的な視点(材料の特性や化学的分析)を伝統工芸研究に取り込むことの独自性と重要性についてお聞かせください

成田先生:学問とは、それ自体が目的ではなく、視点を増やし、物事にアプローチするための方法論だと考えています。たとえば、美術史の観点から「これはこういう作品だ」と捉えるのも、一つの重要なアプローチです。しかし、一歩踏み込んで「それはどのように作られているのか?」と考えると、実際の作り手へのフィールドワークが必要となり、さらに「そこで使われている材料はどのようなものなのか?」という疑問に行き着きます。

私の場合、漆や蒔絵を学ぶ中で、「この材料(漆)はどのようなものなのか」を考えるには理系的な視点が不可欠だと感じたことが、現在の研究に至るきっかけになりました。

一つの側面だけでなく、多面的に捉えることが重要だと考えています。

―― 漆工芸の加飾技法である蒔絵について教えてください

成田先生:蒔絵は、漆で模様を描いた上に金属粉などを蒔いて定着させる技法ですが、蒔絵用金粉を製造している会社は、現在、日本では東京と金沢の2社しかありません。私は、この金粉を製造する東京の企業と協力しながら研究を進めています。

【画像】蒔絵用金粉の顕微鏡写真(成田准教授提供)
【画像】蒔絵用金粉の顕微鏡写真(成田准教授提供)

また、蒔絵粉を日常的に使用している職人の方たちであっても、「蒔絵粉の生産基盤はどうなっているのか」を実際に見る機会はほとんどないのが現状です。材料がなければ職人はものづくりができなくなります。これは、生産基盤の維持という点で非常に重要な課題です。

そうした問題意識から、金粉製造業者の協力を得て、「蒔絵粉の見本」を制作する取り組みを進めています。

【画像】蒔絵用金粉見本手板(成田准教授提供, [金粉製造元]株式会社浅野商店・[手板制作]下出蒔絵司所)
【画像】蒔絵用金粉見本手板(成田准教授提供, [金粉製造元]株式会社浅野商店・[手板制作]下出蒔絵司所)

蒔絵粉には形や粒子の大きさによって多様な種類がありますが、金の高騰により、若い職人が多くの種類を試験的に購入することは難しく、選択の参考となる見本がほとんど存在しないのが現状です。そこで、課題解決に向けて、蒔絵の加工前後の見本を試験的に作製し、顕微鏡観察などを通じて特性を分析しています。これらの研究を通じて、蒔絵粉に関する知識を発信し、伝統工芸の生産基盤を支えていきたいと考えています。

【画像】種々の蒔絵用金粉と蒔絵技法見本手板(成田准教授提供, [手板制作]下出蒔絵司所)
【画像】種々の蒔絵用金粉と蒔絵技法見本手板(成田准教授提供, [手板制作]下出蒔絵司所)

―― 昨今は様々な産業でAIが使われています。伝統工芸にもそのような動きはありますか?

成田先生:伝統工芸の分野でもAIやデジタル技術の導入が進み、図案の考案やデジタルアーカイブ化といった取り組みもすでに始まっています。ただ、AIをはじめとするデジタル技術の場合、他分野の例で言いますと、声優の声の模倣や映像制作における俳優や脚本家の仕事減少など、使い方によっては働き方そのものを変えてしまう難しい課題が常に伴います。

一方で、伝統工芸は「実物を自らの手で作る」という方向性を保っています。産業の形が変わっていく中でも、伝統工芸は必ず残ると信じています。なぜなら、AIのように便利なデジタル技術が増えるほど、人は「自分は何をするのか」「何のために働くのか」を問われるようになるからです。

そのとき、「自分の手と感性を使って生きていく」すなわち、ものづくりが人の生き方や自己実現においてますます重要になるでしょう。料理を機械が作れるようになっても、人が料理をやめないのは「自分で作りたい」という思いがあるからです。それと同じように、手の延長として現実のものを生み出す行為が人生を豊かにし、だからこそ伝統工芸はこれからも受け継がれていくと考えています。

伝統工芸の研究が、なぜ一般企業で役立つのか? 学生のキャリア事例に学ぶ

―― ゼミの学生が「工芸と意匠」を学ぶ中で、伝統産業とは異なる分野へ進む場合、その学びをどのように活かすことができると考えていますか?

成田先生:学生が伝統工芸の知識を一般企業で活かした事例の中で、特に印象的だったのが、ランニングを趣味とし「シューズの研究をしたい」と相談に来た男子学生のケースです。

当初はランニングシューズの研究は難しいと伝えましたが、議論を重ねるうちに「はきものの歴史」を掘り下げ、そこからランニングシューズの変遷を追うという研究テーマにたどり着きました。

この学生は、100kmのウルトラマラソンを走るほどの情熱を持ち、「箱根駅伝のランナーが履いているシューズのブランドやモデルがすべて分かる」という特技も持っていました。彼は、伝統工芸の「ものづくり」の精神を軸に、研究で得た知識を生かし、卒業後はスポーツウェアやスポーツ用品を扱う企業に就職しました。デザイナー職ではないものの、ものづくりの背景を理解したうえで仕事に就いたこともあり、学びがしっかりと生かされています。

―― 他の学生はどのような進路を選択しているのでしょうか?

成田先生:学生の中には、銀行や印刷会社など一般企業に就職するケースも少なくありません。それでも、学生たちが大学での学びを「自分のやりたいこと」と結びつけ、知識を深めて人生の糧にしている姿を見るのは、非常に嬉しいことです。

伝統工芸の研究で培った多角的な視点やものづくりへの理解は、一般企業での営業活動などでも、別の角度から社会に貢献できる力になると考えています。

「変わり続ける」伝統工芸 デジタル時代の継承に必要な柔軟性とは?

―― デジタル社会の利点を活かした若い世代の取り組みが、従来の伝統工芸のあり方をどのように「新しいステージ」へと変えていくとお考えですか?

成田先生:かつてはメディアに取り上げられるのを待つしかありませんでしたが、今ではデジタル社会の利点を最大限に活かせる時代になりました。例えば、作り手本人がInstagramなどを通じて自分のアイデアや作品を世界に直接発信できます。自分の「好き」や「挑戦」を表現すれば、それが瞬時に世界中に届き、共感や評価を得られる時代です。伝統技術を用いながらも、表現方法や発信のあり方には無限の可能性があると思います。

―― 日本の文化を未来につなげ、世界に発信していく「発信者」となるために、今、日本の若者は最初の一歩として、何から日本の文化に目を向け、深く知るべきだとお考えですか?

成田先生:日本の伝統工芸は、実際に海外からも非常に高い関心が寄せられています。京都市にある京都伝統産業ミュージアムでは、来場者の多くがインバウンド客で、彼らの中には日本のものづくりに強い興味と敬意を示してくださる方たちもいらっしゃいます。

一方で、たとえば留学中に「自国の文化を説明できない」という経験をする学生がいるように、まずは日本の文化に目を向け、深く知ることからすべてが始まります。国内にも若者が発見し、発信できる魅力がたくさんあります。そうして培った知識と情熱は、キャリアを形作り、将来、日本の伝統の素晴らしさを世界に伝える「発信者」として活躍する力になるでしょう。

―― 最後に読者の方に向けてメッセージをお願いできますか?

成田先生:多くの人は伝統工芸を「変わらないもの」と見なす傾向がありますが、実際にはその歴史は「変わり続けた」からこそ、現代まで脈々と受け継がれてきました。漆や金属などの材料は不変に見えますが、その時代ごとの職人たちは経済や社会の変化に対応するため、常に「当代の工夫」を凝らしてきました。この柔軟な適応こそが、伝統工芸が現在も人々を魅了し続ける力の源になっています。

ですから、まず世間のニュースや固定観念に惑わされず、自分の足で現場を訪れ、実際に職人に会って話を聞いてほしいと思います。多角的な視点を持つことで、伝統工芸を美術・歴史・材料科学・経済など多様な側面から理解し、一つの面だけにとらわれない判断ができるようになるでしょう。


成田 智恵子先生のご紹介リンク:
– 成田 智恵子|京都産業大学 専任教員一覧

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宇宙ビジネスは夢から産業へ|SpaceXと日本企業が描くリアルな未来 https://ifrc.or.jp/space-business/ Sat, 13 Dec 2025 22:05:19 +0000 https://ifrc.or.jp/?p=2119

宇宙旅行やロケット打ち上げと聞くと、これまでは国が威信をかけて行う遠い世界の出来事というイメージが強かったかもしれません。しかし今、この分野は世界中の投資家が注目する巨大なビジネス市場へと変わりました。かつてNASAやJ […]]]>

宇宙旅行やロケット打ち上げと聞くと、これまでは国が威信をかけて行う遠い世界の出来事というイメージが強かったかもしれません。しかし今、この分野は世界中の投資家が注目する巨大なビジネス市場へと変わりました。かつてNASAやJAXAの専売特許だった宇宙開発は、民間企業が主役となる時代を迎えています。

インターネットが登場して世界が一変したように、宇宙産業の拡大も私たちの社会構造を大きく変えようとしています。本コラムでは、イーロン・マスク率いるSpaceXが確立した収益モデルや、日本企業の独自の戦い方を通して、SFではなく現実の産業として動き出した宇宙ビジネスの最前線を解説します。

投資額は300兆円規模へ|拡大する4つの市場

まず、宇宙ビジネスの全体像を整理しましょう。大きく分けて以下の4つの領域が存在します。

  • 輸送(ロケット):人やモノを運ぶ配送業
  • 衛星利用(データ):通信や位置情報、画像撮影などの情報産業
  • 軌道上サービス:施設の建設やゴミ除去などのメンテナンス業
  • 宇宙探査・旅行:月面開発や観光などのフロンティア開発

この中で現在もっともお金が動き、収益の柱となっているのが輸送と衛星利用の分野です。それでは、世界の宇宙産業の市場規模予測を見てみましょう。

世界の宇宙産業の市場規模予測
マネックス証券「純資産総額2000億円突破!急速に拡大する【宇宙】関連企業への投資の魅力とは?」の資料をもとにIFRCが作成

世界の宇宙ビジネス市場は、2040年には2兆ドル(約300兆円規模)を超えるとされています。注目すべきは、ロケット機体そのものよりも、衛星通信などのサービス分野が市場の過半を占めると予測されている点です。

市場が急拡大している最大の理由は、技術革新によって宇宙へ行くコストが劇的に下がったことにあります。その立役者こそがアメリカのSpaceXです。

SpaceXが証明した再利用とサブスクの方程式

SpaceXの強さは、徹底したコスト削減と、そこから生まれる新たな収益源の確保にあります。これまでのロケットは使い捨てが常識で、一度打ち上げるたびに数百億円規模の機体が海に投棄されていました。

しかし、SpaceXはロケットを垂直に着陸させて回収し、再利用する技術を確立しました。これにより、打ち上げ価格の破壊的な引き下げに成功したのです。

さらに彼らは、運送業だけでは終わりませんでした。自社の安くなったロケットを使い、自社の通信衛星を大量に打ち上げるスターリンク(Starlink)というサービスを展開しています。

SpaceXのビジネスモデル
  • ロケット事業:他社の衛星を運んで運賃をもらうフロー型ビジネス
  • スターリンク:世界中のユーザーから毎月利用料をもらうストック型ビジネス

スターリンクは、地球の周りに数千個の衛星を配置し、砂漠でも海上でも高速インターネットを使えるようにする仕組みです。2025年時点ですでに世界70カ国以上で商用化されており、契約者数は数百万人規模に達しています。運賃という一時的な売上に加え、月額料金という安定した継続収入を得ることで、次の巨大ロケット開発への投資を可能にしています。

日本企業独自の勝ち筋と多様化するキャリア

アメリカ企業が圧倒的に強い印象を受けるかもしれませんが、日本にもはやぶさなどで培った高度な技術力があり、特定の分野では世界トップクラスのスタートアップが育っています。日本勢が強いのは、大型ロケットではなく、小型衛星を活用したデータ活用などのニッチな領域です。代表的な日本の企業は、以下の3社です。

  • ispace(アイスペース):月への物資輸送をビジネス化し、2023年には民間企業として世界初の月面着陸に挑み、上場も果たしました。
  • アクセルスペース:超小型衛星で地球を毎日撮影し、農作物の生育状況や都市開発の進捗をデータとして販売しています。
  • Synspective(シンスペクティブ):夜間や雲の中でも地表が見える特殊な衛星技術を持ち、災害時の状況把握やインフラ管理で強みを発揮しています。

日本政府も1兆円規模の宇宙戦略基金を設けるなど、国を挙げてバックアップ体制を強化しています。また、産業が拡大するにつれて、求められる人材も多様化しています。

理系のエンジニアだけでなく、宇宙空間でのルールを扱う法務の専門家、衛星データを金融取引に活かすアナリスト、各国の政府と交渉する事業開発担当者など、文系人材の活躍の場が急速に広がっています。内閣府が策定を進める宇宙スキル標準でも、技術系以外の専門職の定義が進んでおり、あらゆる職種にとって宇宙がキャリアの選択肢に入り始めています。

まとめ

SpaceXの成功が証明したのは、宇宙が特別な冒険の場所から、経済活動を行う場所になったという事実です。日本のスタートアップも、独自の技術を武器に世界市場へ挑んでいます。

この分野は、間違いなく21世紀最大の成長産業のひとつです。投資対象として見るもよし、就職先として検討するもよし、あるいは将来のビジネスツールとして活用するもよし。宇宙ビジネスという視点を持っているだけで、これからの世界経済のニュースが違った景色に見えてくるはずです。

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