省エネバルブ・フィン舵(以下、「本開発品」)の開発にあたっては、シリング舵など高揚力舵の専門メーカーのJHCの舵効きを活かし、省エネ性(馬力改善)を高めたものです。本開発品の特徴は以下の通りです。
1)プロペラの旋回流を回収する為、リアクション形状を高推力翼型としラダーホーンも捻じっています。(省エネバルブ・フィン舵は負圧が際立ち、推進力増加に寄与している)
2)舵下の端板を小型にして抵抗を減らすとともに、プロペラ旋回流を塞き止めています。
3)中央の大型バルブも正面をフラットとして、プロペラ流入速度を抑えプロペラ効率を高めます。
一般的な肥大船船型として公開され、各種研究開発で広く用いられているJBC(Japan Bulk Carrier)船型において、通常のリアクション舵では4%以上の馬力改善は難しいところ、本開発品においては、CFD(数値流体力学)によって通常舵比5.7%、大型水槽による自航試験で5.2%の馬力改善が確認できました。
痩せ型船型に対しても本開発品を適用してCFDで4.4%の省エネ効果が確認できており、今後は最適化作業を行ったうえで、水槽試験を実施予定です。
今後の実船搭載に向け、PBCFのトルク低減効果との相乗効果も狙い、さらなる効率改善に取り組んでまいります。なお、この省エネバルブ・フィン舵は特許を取得しています。

舵表面の圧力変化(赤~青)はプロペラが回転していることで生じ、舵上部には左舷から流入し、舵下部には右舷から流入しています。商船三井テクノトレードは、このプロペラの回転による旋回のエネルギーロスを有効に回収する舵を目指しています。
本件に関するお問い合わせ先:技術開発推進室 [email protected]
]]>| 船舶への風力利用の近代化 田中 良和(商船三井テクノトレード株式会社 専務取締役) |
本コラムは、月刊共有船2020年7月号向けに書いた記事を編集して作成しています。別コラムで、現在の就航船の推進に使っているエネルギー消費を減らす取り組みをご紹介しました。本コラムでは風力利用の近代化について紹介します。
船舶において風力利用が見直され、近代化への取り組みが始まった背景の1つに素材技術の進化がある。複合材や炭素繊維など軽量・強靭な素材の登場で、風を受ける帆や凧の技術的な選択肢が広がっている。また情報技術や制御技術の進化も大きく寄与している。ウェザールーティングや航路解析技術、帆の自動制御などによりきめ細かく帆のコントロールが出来、風を効率的に推進力に変えることができるようになっている。
現在、開発が進められている風力推進装置には、昔からの軟質帆のほかに、硬質帆やローター式、凧牽引式などさまざまな形がある。GHG(温室効果ガス)削減効果は船種や推進方式、航路、季節、天候などで変動するが、条件が重なれば外航船で20%以上の削減が可能との試算もある。内航船は外航船と比べて、主機馬力が半分以下の場合が多く、主機出力に比べ風力利用の比率が大きくなるので、出力削減効果が期待できる。一方、デッキエリアは風力利用可能なスペースがある船も多くあるので、相対的に風力の価値は倍以上になる。つまり外航船で20%の削減が可能とすれば、内航船では40%の削減が可能なことを意味する。
2.1 風力推進の原理
風力推進というと帆掛け船で追い風しか利用できないと思われるかも知れない。
図1に航空機の翼のメカニズムを示す。図6の横風の時の帆の推力図がほぼ同じ状況を示している。船舶の最新の風力利用の基礎的なメカニズムは航空機の翼と同じであることをご理解いただきたい。
とりわけ、真横風はエンジン船では、斜航や当舵が生じ燃費悪化の要因となるが、帆を使えば前進力に転化できる。

図2に練習帆船の日本丸とDar Mlodziezy号の性能を表すポーラー線図を示す。円の半径は、風速の何割の船側が出るかを示し、最外側は風速の半分の速力が出ることを示す。
また、横風と斜め後ろ風が最も効果的であることを示している。痩せ型船型のD.M.号は風向が80度~130度ぐらい迄、風速の6割程度の速力が出る。30kt(約15m/s)の横風で18ktの船速が出ることになる。追い風は自身のスピードで相対的に風速が弱まる為、一般的に考えられているほど効かないことも示している。

内航海運においては、航路と季節風をマッチングさせることができれば大きな省エネ効果が期待できる。
1986年に船舶整備公団(現JRTT)が実施した調査によれば、帆走システムを有する4隻の新愛徳丸・愛徳丸(699GTタンカー)、扇蓉丸・日産丸(699GT貨物船)の3年間の運航実績調査解析の結果、帆による馬力利得は全航海平均で夏季10%弱、冬季20%弱であることが報告された。
これらの内航船は、オイルショック後の燃料費が高騰した約40年前に建造されたものであるが、その後燃料費が再度安値で安定した為に普及に至っていない。
が、現代の最新技術を駆使し、改善を加えれば、風力利用内航船の普及は可能と思われる。
斜向風が来た時に船体を翼として揚力(主に前縁推力)が発生する原理を利用し、推力を最大化する最適な形状を紹介する。商船三井、三井造船昭島研究所と当社は風エネルギーを推力に変換する図3の下図のPCCを開発している。これについては別コラムが有るのでご参照頂きたい。
図3で上の現行船は風圧により大きな抵抗が生じているが、下の改良型は船体周りの流れが格段にスムーズになっており、風による抵抗は少なく、特に船首右舷側の流れが速く(クリアに船体が見えている)、その結果大きな負圧域が生じて抵抗ではなく推進力が出ている。

日本で研究された硬翼帆は、東京大学が中心となり産学連携で進めた次世代帆走船ウインドチャレンジャー・プロジェクトがある。図4は実験用に作った1/3モデルの上下伸縮式帆で、FRP製の硬翼帆を使用した。
硬翼形状であるのでヨットなどの軟帆と比べて風を推力に変換する効率に優れる。
その後、同プロジェクトを商船三井と大島造船所が発展的に引き継ぎ、実装に向けて検討を進めている船が図5に示すバルカーである。


図6は帆の運用方法で正面風は完全縮帆して帆を風に立て抵抗を減らす。その他の角度は推力が得られるように角度調整を自動で行う。縮帆と展帆も風向風速とマスト基部の応力などを計測して自動で行う。
10万トンのバルカーに一本の帆を装備しシミュレーションした結果では、日本・豪州東岸航路で平均約5%の省エネ効果が、日本・北米西岸航路で平均約8%の効果がある。

他の硬翼帆では、Wallenius Marine社(Becker社)が折り畳み式の帆を搭載したPCC(図7)を22年以降実現することで検討中である。縦に2つ折りで、全体に倒して格納も可能な方式である。
日本のエコマリンパワー社は、図8に示すように比較的高さの低い硬翼帆を多数立て、硬翼帆表面に太陽電池パネルを張付ける方式を開発している。


ソフトセイルも改良が加えられている。図9はDKSTRA N.A.社の前兆106mの大型ヨットで2018年に就航している。軟帆であるが、翼形状のフレームに沿って展張されるので硬翼帆に近い性能が出るものと思われる。最高速度は17Ktとの事。

デッキ上に円筒型のローターを垂直に搭載し、円筒を回転させ風を受けてマグヌス効果で推進力を得る「円筒型帆」も普及しつつある。野球のボールが回転によってカーブする原理と同一である。図10ご参照。これについても別コラムが有るのでご参照頂きたい。
フィンランドのNorsepower社の円筒型帆が、フェリーやRORO船、プロダクト船などに搭載されている。


凧の活用も検討が進んでいる。Airbus社傘下のAirseas社がカイトシステムを開発し、川崎汽船が1000㎡のカイトをケープサイズ・バルカーへの搭載を決めた。(図12)風は高度が増すに従い風速が早くなるので、高高度の風を受けることで、20%以上のGHG削減がもたらされるとのことである。またカイト型は、運航中の展開や回収も課題になるが、展開と回収は船首のマストを使い自動で行う設計になっている。カイトは8の字を書き大きな旋回を行い高速で移動する。その速度で凧を翼として受け働かせ大きな推力を得る。

現在の帆は大なり小なり翼の原理を使っている。翼の背面は表面の流れが高速になり、翼の後端で流れが乱れ剥離することがある。航空機では失速と言い、揚力が低下して危険な状態になることもある。
これを防ぐため翼の後端で吸い込み口を設ける工夫がなされることがある(図13参照、40ftコンテナに入れ子で格納できる)。この原理を利用したサクションウイングも実用化に向け実験が進んでいる。
図14はEconowind社の2本の帆を設けたサクションウイングユニットを船首楼に取り付けた例である。


風力利用の短所は文字通り「風任せ」となることであり、予報や解析技術を活用しても限界はあり、航行スピードが落ちてリードタイムが伸びる可能性がある。完全風力船を実用化するとなると、定時運航は難しくなるため事業モデルの転換が必要となる。このため実際には、エンジン推進と併用して補助的に使用することが現実的となると考えられる。また風力をエネルギー効率設計指標(EEDI)に算入するための制度の整備も必要となる。

表1は、3章の主要な風力利用システムのPROS&CONSをまとめたものである(バッテリー船は参考に記載した)。また、風力利用とバッテリー利用は相互に補完しあう関係にあると考えられる。過去に実用化された内航帆船の愛徳丸のケースでは、馬力削減が50%を超える日もあった。このようなケースでは、主機の方は低負荷運転となる為、変動する風力を補助動力として使うには電気推進(ディーゼル+電池)船の方が向いていると思われる。
別コラムで、現在の運航船でのロスを約1/3削減して小さなエネルギーで船の運航が出来る例を紹介した。
そこに自然エネルギー利用も加えることで、さらにGHG削減の道を広げることが出来ると思われる。そこで最新の風力利用技術の紹介をした。
自然エネルギーは風以外には波力、太陽光などあるが、いずれも現時点ではそれだけで大型船の推進を賄うには不十分である。だが、船がGHG削減に貢献する為には2割3割の削減も重要であり、脱炭素の切り札である自然エネルギーの利用、特に風力利用が有望である。
現行船のまず無駄遣いを止め、自然エネルギーを利用すれば、現在の運航船が使っている半分のエネルギーで貨物輸送できる見込みが有るものと考えている。
そこから、水素エネルギー、アンモニアなどの究極のGHGフリーの燃料利用をさらに進める事になればと考えている。
]]>| 既存船GHG削減策について 田中 良和(商船三井テクノトレード㈱ 専務取締役) |
本コラムは、2020年6月号の月刊共有船向けに書いた記事を編集して作成しています。
IMOでは2018年に「今世紀中に船舶が排出する温室効果ガスの排出ゼロを目指す」ことが合意され、「2050年までに排出量を半減(2008年比)させる」という目標を設定した。
これから30年で船からのGHG排出量を現在の約半分にするということである。が、実際は貿易量の増加が見込まれており、半減以上の7~8割の削減量が求められている。これは、従来の延長線上の船型改良や機関の性能向上だけでは達成困難であり、ハード面ソフト面と代替燃料と利用できるものは全て利用すべき局面である。
まず、既存運行船のエネルギーロスを減ずる可能性を紹介する。
2.1 摩擦抵抗低減
(1)全面ブラストによる回復
現在の外航船は摩擦抵抗が全抵抗の6割以上を占めている。従来高速で航海していたコンテナ船や自動車船も低速運航が一般的になっているので、圧力抵抗と造波抵抗成分は合計でも4割以下となっている。当然摩擦抵抗は船底表面の表面粗度に支配されるので、メンテナンスは重要となる。
図1はかなり状態の悪い船ではあるが、バラスト喫水と満載喫水の間のブートトップ部が岸壁のフェンダーでこすられ発錆している。荷役中に船体が揚げ荷時は上に、積荷時は下にずれていく、ことは現在の係留方法では致し方ないことである。この発錆をドック時に除去しペイントをタッチアップしてもペイントの段差が生じてしまう。
MOLの調査では、船の推進性能の経年劣化率は0.06kt/年と言われていて、10年では0.6ktにもなる。これは馬力損失で言うと約15%にもなる。一部の船主では、あるタイミングで(建造後15年など)船底全面サンドブラストを打ち、再塗装する場合があるが、まだ一般的でない。

図2は全面ブラスト打って金属面が見えている所と、図3はその後全面再塗装中のところ。正直なところブロック建造部のつぎはぎだらけの塗装の新造船より表面は、はるかに、なだらかになる。


(2)ドックインターバル短縮
この表面粗度の悪化によるロスは海洋生物が付着していない場合の話で、海洋生物が付着すれば、さらに馬力ロスは大きくなる。図4は上のブラスト打った船のドック直後の船尾部であるがこの程度の汚損は一般的に良くみられる。
図5は、大きなフジツボの付いた酷いケースになるが、馬力ロスは30%~40%にも及んでいると思われる。


具体的に新造船で船底汚損度の影響を調べたケースが有るので紹介させてもらう。図6は約3か月の艤装期間中(軽荷時なので満載の約1/4の喫水、その上部は汚損していない)に、ビルジキールと船底フラット部に少々の小さいフジツボが付着し、プロペラに少しスライムが付着し、係留中の喫水下に少しスライムが付着していた。これを除去した前後に2度試運転を行い確認した結果、馬力ロスは6.6%であった。
この新造船の船底状況は、船側部の大部分は没水していなかった事、又汚損も大したことないので、ほとんどすべての就航船の状況より良いと考えられる。
つまり、普通の就航船はこれ以上の馬力ロスをしていることになる。

燃料費が150$/T程度の安い時代に考えられたドックインターバルを延ばすという考え方を現在も採っている船社も有るが、逆にドックインターバルを短くして船底コンディションをキープする方が費用対効果に優れるとする試算も有る。燃料費が高くなれば、対策も変えなければならない。
2.2 機関の汚損・劣化改善
ディーゼル主機関の汚損と経年劣化による燃費悪化を紹介する。図7はSR235に報告された燃費悪化の概念図だが、汚損や衰耗により燃費率が悪化していく。合計すると10%程度になっていく。
過給機、エアクーラー、燃料ポンプ、燃料弁などは機関性能に大きく関係する設備でこれらを掃除し、衰耗部品を交換することで燃費性能は回復する。
燃料弁7弁中3弁の噴霧が悪く、取替た前後で燃費率を比較したところ約2%燃費率が改善していた例もある。

低速運航は船速の二乗でトンマイル当たりのCO2排出量が増加する為、GHG削減に有効であることは論を待たない。
が、早期到着ロスも馬鹿にできない。自動車船が北太平洋航路で4時間早く着く為には1.6%の増速が必要で約3.2%程度の燃費ロスが生じる。20時間早く着けば8.3%の増速が必要で、約17%の燃費増となる。20時間程度の早期到着は良く見られるので、対策が必要なレベルとなっている
3.2 天候予測と航路選択
外乱中での推進性能は不確定要素が多く正確性に欠くので、業界では今まであまり取り上げられなかった。現在は各国で取り組みが始まっており、そのロスの大きさに驚かされている。
図8の写真の波浪中の客船は、乗客の安全が脅かされる事態だと考えられるが、その馬力ロスは100%以上となっていると思われる。(燃料消費が倍以上になること)
全ての客船は低気圧を意図的に避ける運航をしているはずであるが、馬力ロスと密接な関係のうねりに注意すべきである。
向かいうねりによるピッチングが馬力ロスの最大要因となっているので、当社でも対策を検討しているところである。


図9は海上技術研究所がうねりの方向と船速低下を表したもので、BF9の時正面からのうねりに15ktの船がMCRの馬力を出しても5ktしか出せない状況を表す。横からや後ろからのうねりは船速に影響しないことも表している。
ウエザーニュースの情報などで荒天を回避して最適航路を追求することは一般的になっている。低気圧の進路予測は進んでおり、低気圧を避けることは出来る。が、長周期のうねり(外航船の航行に影響する)は遠くから伝播するので、近くの低気圧と直接関係が無い為に、低気圧と別にうねりを注意することが必要である。
■4.まとめ
例えば、船底経年劣化改善(10年毎に全面サンドブラストを打つ)は20年平均で10%、ドックインターバルを早め汚損状態を放置しないことで、さらに平均10%を回収。波浪中の運航改善(正面からの大きなうねりの回避)で5%、機関汚損の整備で5%、早期到着ロス改善で5%回収と置くと、合計で35%回収できることとなる。
船舶は自動車と違って、設計者、建造者、所有者、運航者、船舶管理者、乗船者と分業が進んでいるので、各々利害関係も有り全体最適が図られにくくなっていると考えている。その為、2章、3章に述べたような様々なロスが生じていても気が付かないケースも見られる。まずこのロスを削減して小さなエネルギーで船の運航が出来るようにすることが燃費削減だけでなく、GHG削減からも求められている。
| さまざまな課題を乗り越えてPBCFを製品化するまでに至った経緯についてご紹介します。 |
1987年の製品化以降、現在4,100隻以上の船舶に搭載され、世界中に認められる省エネ設備となったPBCFですが、当初はさまざまな課題に直面しました。一番の難関は、開発に携わった商船三井内部にあった「ユーザーである船会社が主体となって全額費用を負担して開発を進めるのは適当でない」という否定的意見を覆すことでした。それを乗り越えて製品化するまでに至った経緯について、ご紹介します。

1983年半ば、主に漁船向けプロペラのメーカーで三重県名張市に本社を置くミカドプロペラ(株)(現在はナカシマプロペラ(株)に吸収合併されている)の河野技術部長がプロペラ翼根部の表面にフィンを付けるアイデアを考案された。
その効果確認の為、ミカドプロペラは長崎県佐世保市にある(株)西日本流体技研に水槽試験を委託した。その試験を観察していた西日本流体技研の起業家で推進性能が専門の小倉専務が、フィンをプロペラ中心後部のボス部に付けたらどうかとのアイデアを思いついたのが発端となった。同社の玉島部長とそのアイデアに基づき社内で水槽試験を実施した。
その結果、フィンの有無によりボス後方から発生する渦に明らかな差があり、ボス部にフィンを付ける効果を定性的に確認できたとして、西日本流体技研は1986年7月にこのアイデアを特許申請すると共に、この件を元々の試験依頼者であるミカドプロペラに伝えたところ、ミカドプロペラも同様のアイデアを実用新案として申請している事が判った。
但し、ミカドプロペラはボスにフィンを付ける研究開発を単独で進める意図は当面無く、西日本流体技研も実用化を目指しての研究開発を進めるのは資金面等で困難な状況にあった。
その頃、(株)商船三井が、当時欧州で開発された省エネダクト採用に当たり、その効果確認水槽試験を西日本流体技研に委託し、その立会いに商船三井工務部の大内技術課長が西日本流体技研を訪れた。
そして、この試験立会い後の懇談の場で、西日本流体技研の小倉専務が大内課長に、プロペラボスにフィンを付けるアイデアを説明すると共に、その実用化の研究開発に商船三井がスポンサーとして加わらないか、と持ち掛けたのである。
西日本流体技研としては、自社開発重視の大手造船所よりも、むしろユーザーである大手船社の方が興味を持ってくれるのではないか、との期待があった。
新技術開発に意欲的であった大内課長はこのアイデアに共感し、商船三井がこの研究開発プロジェクトに参画すべく社内に図る事を表明。
ミカドプロペラ・西日本流体技研・商船三井、3社の役割分担、開発スキーム・費用概算を協議の上、提案書を取り纏めその後商船三井社内で上程される事となった。

■工務担当役員が提案を却下
1986年9月、大内課長よりフィン付き新型プロペラの共同開発に関する提案書が工務部技術開発担当の折戸副部長(後の当社初代PBCF事業部長)に提出された。ミカドプロペラ・西日本流体技研・商船三井3社共同で製品化を目指し研究開発を推進、数千万円と想定される研究開発費は商船三井が全額負担し、実用化に成功した場合は商船三井が本製品の事業権を持つという、船会社としては画期的かつリスクを伴う提案であったが、提案を受けた折戸副部長は実用化に成功すれば省エネ対策として非常に有効であり、新規事業としても有望ではないかと考え、社内に上程していく事としたが、その道程は簡単ではなかった。
この提案について、工務担当役員からこの種の新製品の開発は造船所や関連メーカーが行うべきもので、ユーザーたる船会社が高額な開発費を全額負担して主体となって行うのは不適当であるとの経営判断で却下されたのである。
そこで、この開発につき識者の見解を得るべく東大の高速流体力学専門の加藤教授に相談した結果、プロペラの研究は主に半径の半ばから先端までのものが主流で、ボス周辺の研究は手付かずで、可能性は大いにあるのではないか、とのアドバイスを頂くとともに、西日本流体技研の小倉専務の技術者としての実績と信憑性についても言及頂いた。
それで力を得て、当時技術開発案件を審議する運航技術効率化委員会の委員長である海務担当役員に相談した。すると委員長はかねがね当社が主体となって進める案件が有っても良いと考えていて、東大の先生が有望というなら進めるべしとのことであった。
そこで開発を、フェーズ1として基礎的水槽試験で定性的な効果確認
フェーズ2としてシリーズ水槽試験で最適形状の探求と定量的に効果確認
フェーズ3として大型水槽試験と実船での実験
と3つに分け、フェーズ毎に効果確認の上次のステップに進むことし、1986年10月末に、商船三井、西日本流体技研、ミカドプロペラの各社担当者を決め、大内課長をプロジェクトグループ・リーダーとしてまずフェーズ1の実験を開始し、定性的にボス渦を解消することが出来ることを確認した。


ボス形状によるハブ渦の違い
当初提案にネガティブであった工務部担当役員もステップごとに順調に開発が進むにつれ、本プロジェクトに好意的に対応頂く事となる。
■逆POTの考案と実船実験
1987年3月から本格的に社内の委員会に承認され、フェーズ2の一連の水槽試験を開始した。が、POT試験ではプロペラの後流にプロペラ軸や計測装置が存在し、ハブ渦の成長が抑制されているので十分な効率アップが計測されなかった。
そこで商船三井の塩津課長代理が現在は一般的になっている逆POTを考案した。逆POTはプロペラ効率の計測速度は落ちるが、プロペラボス後方をクリアにすることが出来、PBCFの効率改善計測に成功した。
フェーズ2の成功を受け、大型水槽試験でコンテナ船と自動車船の実験を行い良好な結果を得た。
又、特許については1987年7月に先の西日本流体技研の特許申請とミカドプロペラの実用新案に優先権をかける形で3社の共同出願とし日本で特許の申請をし、1996年9月に正式に特許登録された。続いて海外も十数か国で登録された。
その後、実船実験は1987年9月に自動車船の姉妹船2隻でPBCF有り無のドック後の試運転比較を行った。その結果約4%のPBCF効果を確認できた。
開発に伴い1988年5月に初めてPBCFの研究開発について日本造船学会で発表する他、現在まで数多くの論文を発表し、1990年5月に日本造船学会の発明考案賞を頂く他数々の受賞があった。
]]>とりわけ上部構造の受風面積が大きく、風圧抵抗が推進性能に及ぼす影響の大きい自動車運搬船(PCC)を対象に、風圧抵抗低減船型の検討を実施した。検討が始まった時に図. 1に示す“ISHIN-I”を10年前に発表しました。その後改良し推力を発生する船型として図.2を開発しました。


次世代船シリーズを構想 ~第一弾 自動車船「ISHIN- I」~
正面風圧力低減を目的として、これまで船首端部を斜めにカットアップし流れを整流する等の風圧抵抗低減検討はSHIP OF THE YEARを頂いたCOURAGEOUS ACEで実現しました。その船型は既に業界のデファクトスタンダードになっています。
しかしこれまでの船型においては、船橋部分は上部構造とは分離した形状となっていました。そこで船橋部分を船体に埋め込むことで、正面風圧抵抗の低減効果を高め、さらに前進力として推力を得ることに成功しました。
推力が最大の時は正面の風圧抵抗の2倍の推力を発生し。最大推力は60度の斜め向かい風の時に発生します。推力は斜め向かい風の40度から真後ろ迄の広い範囲で発生する優れた船型となっています。図3の斜め向かい風の圧力分布図をご参照ください。
また上甲板の船側部には全長に渡り段差を設け隅切り部分を設けています。こうすることで斜め風や横風の風況下でコーナーからの流れの剥離が抑えられ、横風による影響が低減されます。その結果、PCCで顕著に現れる斜航が緩和され、風外力による横力をキャンセルすべく起こる斜航(横流れ)が減じられ、結果として水中の抵抗を削減できます。すなわち燃費効率の向上がもたらされる船型になっています。
一般的なPCCの船尾形状は箱型のビルのように角張っています。これは自動車の積載台数を最大にするです。一方で船尾形状が箱型であるがゆえ、航行中に船尾では空気抵抗が増大し渦を巻く流れが発生しています。この渦による船尾の負圧で直進方向とは逆方向に船体を引っ張る力が発生し、大きな抵抗になっています。そこで航行中船尾に発生する渦を整流化し推進性能を向上させる形状として、ランプウェイ一体型の涙滴形状船尾を有する船型を考案しました。図2をご参照ください。
その結果、従来型船型と比べて北太平洋横断航路の平均海象(風力)のシミュレーションで約6%の省エネを達成することが出来ました。
尚、本船型は(株)商船三井、(株)三井造船昭島研究所、と当社で開発しました。特許も取得できました。現在商船三井でこの船型を実船に採用するべく検討されています。

| 有限体積法を用いたPBCF周りの流場解析 日本船舶海洋工学会秋季論文集 2008 PBCF のハブボルテックス抑制メカニズムについて 日本船舶海洋工学会春季論文集 2009 CFDによるPBCF の流体的メカニズムの解明について 日本船舶海洋工学会秋季論文集 2009 |
流体力学的なメカニズムの面からPBCFの効果が解明されています。紹介された計算手法は、ボス及びフィンの表面上や表面のごく近傍の流場まで粘性を考慮した流速分布、流線、圧力分布及び渦度分布を求めることができると報告されています。


PBCFの流体的効果について、次の3点が数値計算で明らかになりました。
1.ハブボルテックスによって生じていた低圧部が消滅し、プロペラスラストの上昇。
2.PBCFにはプロペラ翼と逆向きのトルクが働くことを確認し、PBCFの付加によりトルクが減少。
3.PBCFを付加することでプロペラ翼に働くスラストは増加。

| 当社が代理店契約を締結しました、ノースパワー社の風力推進補助装置「ROTOR SAIL」をご紹介します。 ご関心がありましたら[email protected]までお問合せください。 |

自然エネルギーを活かすGHG削減の対策として 、省エネ装置“ROTOR SAIL”をご紹介します。
ROTOR SAILは、フレットナー・ローターを基にした風力を利用する推進補助装置で、ノースパワー社によって開発されました。現在3隻の船舶に導入され、順調に稼働、非常に効果の高い燃料削減性能を実証しています。
ノースパワー社のROTOR SAILはより洗練された推進補助装置であり、燃料消費量とCO2の排出量を減らすことができます。マグヌス効果を利用しており、船舶に取り付けられた回転中のローターに風が吹き込むことで、ローター周りに圧力差が生じ推力を得ます。自然エネルギーを電気等に変換しないので、高い推進効率が得られる特徴があります。 この推力は風向に対して直角に発生するため、ローターの回転方向を変えることによって常に(船首尾方向の風以外)船舶の進行方向に推力を与えることができます。そのため、船舶の推進に必要な推力及び馬力が減少し、燃料消費量とCO2の排出量が削減されます。船種、風の状況、航海期間、搭載したROTOR SAILの本数などによりますが、おおよそ5~20%削減できます。


1.Estraden (RO-RO船):2014年ROTOR SAIL搭載での運航開始、18×3サイズを2本搭載。
2.Viking Grace (客船):2018年4月ROTOR SAIL搭載での運航開始、24×4サイズ1本搭載。
3.Maersk Pelican(タンカー):2018年8月ROTOR SAIL搭載での運航開始、35×5サイズを2本搭載。


上記3隻の燃料消費量削減効果をロイド 等第3者機関が測定し、解析した結果が以下の通りです。

次の導入プロジェクト
Scandlinesが所有するハイブリットフェリーCopenhagenに、ROTOR SAIL搭載4隻目として導入される予定です。
導入される30×5サイズのROTOR SAILは、4~5%ほどの省燃費及びCO2削減が期待されています。
各船級協会では、風力による推力補助装置の設計及び運用についてのガイドラインを設けており、ロイド船級協会ではノースパワー社のROTOR SAILを導入した3隻の船舶を承認しました。また、DNV GLは最も大きい30×5サイズのROTOR SAILに対して、型式認証を発行しました。ノースパワー社は、適用される規則と必要条件の順守を確保するため、船級協会と協力しています。
ノースパワー社は、特定の航路での航行や、気象海象の状態での燃料節約量を推定できるシミュレーション・ケーススタディを用意しています。ROTOR SAILによる経済効果にご興味のある方は是非[email protected]へご連絡ください。
船舶運航によるCO2排出量を、2050年までに50%削減するというIMOが定めた目標を達成するには、様々な技術と解決策を用いて船舶のエネルギー効率を向上させること、再生可能エネルギーのシェアを高めることが求められます。
ROTOR SAIL搭載による全外航船舶のCO2排出削減量はノースパワー社の試算によると、国際海運全体の排出量から8,200万トン(8%)減らすことが可能です。また、ROTOR SAILを製造するにあたって発生するCO2は、ROTOR SAIL搭載での運航2~4ヵ月で回収できます。ROTOR SAILは設計上約20年間使用可能であり、この間CO2削減に対して非常に有効な製品となっています。
既存設備の効率化や新たな省エネ装置搭載によって、全ての船が環境への負荷を低減させることできます。多くの省エネ装置の中でも、ROTOR SAILはメンテナンスの頻度が低く、運用も遠隔監視装置によって完全に自動で行われるため、乗組員の負担は最小限に抑えられます。また、万一の際にはノースパワー社によるサポートを受けることも可能です。
ROTOR SAILは多くの船にとって環境的、経済的効果が期待でき、持続可能な未来への1つの解決策として地球環境保全に貢献します。
貴社の船舶がどれほどの燃料消費を抑えることができるかご関心がありましたら当社へご連絡ください。また、ノースパワー社のホームページに詳細情報が記載されていますので、是非一度訪れてみてください。
当社は、貴社の船舶運航を支援できることを楽しみにお待ちしております。
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実船試験の結果より、PBCFの効果が十分に検証され、Teekay社のタンカー船隊への取り付けが決定された。期待される省エネ効果は約3.5%であり、アフラマックスタンカー、スエズマックスタンカーの予想投資回収期間は約6ヶ月である。この数値は要求される費用対効果の値を超えた良い数値となっている。
]]>| Energy Saving Technology of PBCF and its Evolution IPS’10, April 2010 PBCFの誕生とその進化 日本船舶海洋工学会誌 第31巻 平成22年7月 |
PBCFの誕生に大きく貢献した試験方法が紹介されています。従来のNormal POTではPBCFの効果は動力計の軸に隠れてしまいその効果を見ることができませんでした。そこで、種々の試行錯誤の結果、Reverse POTによる試験評価方法が案出され、これがキーテクノロジーとなりました。
Reverse POTは通常のPOTとは逆に進行方向前方に動力計をおいてプロペラ特性を計測しPBCF付の性能を無い場合と比較し評価を行う方法です。
右上図はReverse POTによるプロペラ単独性能の試験結果の一例を示し、PBCFによりプロペラ前進率の広い範囲にわたりプロペラ単独効率が向上することが確認されています。

流体力学的現象が詳細に把握できるCFD解析が紹介されています。
5翼プロペラでPBCF有無のCFD解析を行い種々の興味深い知見が得られたと報告されています。
計算結果の一例としてPBCF無し、PBCF有りの場合でプロペラ翼、ボス表面およびPBCF表面の圧力分布に顕著な差があることが報告されています。PBCFはCFD解析をキーテクノロジーとしてさらなる進化の見通しが得られつつあります。


